第15話 アルバータの父
エンポリオ・ギュドスフォー侯爵は、代々王族の側近として名を馳せた貴族だ。
歴代の王族に側室を送り込むことで王族の後ろ盾を勝ち取り、裏では悪どく立ち回り利権を手にしてのし上がってきた。
次代の王となる道を着々と進んでいる第1王子にも、是非ギュドスフォー家の一族から側室をと、何度も伺いを立てていたが、一向に良い返事を寄越さない。
痺れを切らしていた所に、第1王子に男子誕生に続き妃懐妊のニュースが飛び込んで来た。詳しく調べを入れると、王子は妃を溺愛しており、他の妃を娶るつもりはないと王に宣言しているだと?愚かな。我ら貴族の力があってこその王族だろう。軽んじるにも程がある。
このままでは次の王の代で我がギュドスフォー家の力が弱まってしまうと恐れたギュドスフォーが、悪に手を染めるのは必然だった。
ギュドスフォーの中では、一族の繁栄こそが正義。
邪魔する者の命は紙程としか思っていない。
まずは第1王子に誕生した男児を攫って来させ、取り返した恩と引き換えに側室を入れさせようか。
男児は始末してしまい、傷心の第1王子の妃の心を壊して差し上げようか。
今までの生温い策略から一線を画した陰謀を練りながら、ギュドスフォーは、傍系のザガール男爵に指示を出す使いを出した。
ワーマイル・ラグハルトはラグハルト公国の第1王子として生まれた。
幼い頃から王帝教育を受け、秀でた才能に加え努力家でもあり、気品に溢れた若き次代の王として、敬われる存在に成長していた。
美しい妻とようやく5歳になった息子を愛し、愛する妃の腹の子の誕生を待ち望み、幸せだった。
ある日までは。
息子のアルバータを狙った誘拐組織の刺客の剣が、息子を取り戻そうとしたワーマイルを貫くまでは。
刺客はすぐに取り押さえられたが、尋問前に自ら命を断ち、真相はわからぬままワーマイルは帰らぬ人となる。
ワーマイルの愛妻でありアルバータの母は、悲しみに暮れ、愛する夫を追うように間もなく、腹の子と共に亡くなった。
巷では魔力の大きいワーマイルやアルバータより、弟王子の家系が御し易いと考え、第1王子の子が狙われたという不敬な噂まで出回っていた。
噂は全くの出鱈目だったが、混乱を鎮める王命が下り、議会や大臣、有力貴族が動き、結果として第2王子のマリノス・ラグハルトが順当に皇太子となる。後、譲位され、王位に就いた現王だ。
成長したアルバータは現王が即位された年に15歳となり、母の生家であったルクシュワ家の領地を継ぎ、その時からアルバータ・ルクシュワ公爵を名乗っている。
未だ捕まっていない父の仇を捕まえるために。
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