第14話 魔法の授業

「魔導師のレスターと申します」

 アルバータの屋敷の豪華な応接の間で、昼食後すぐから待ち構えていたカズマの元に、さほど待つ事もなく、魔法の先生となるレスターがやって来た。

 レスターは緑色の髪と瞳をし、黒いマントを着けた中年の優しそうな男だった。

「カズマです。初めまして。どうぞよろしくお願いします」

 自分に魔力があることにまだ半信半疑のカズマは、どんな事をするのかガチガチに緊張して、自分でも挨拶の声が上擦るのがわかった。

 そんなカズマの緊張を和らげるためか、レスターは自己紹介をしてくれる。

 普段から今回のように貴族の私邸に呼ばれ、魔力感知の力を活かして幼い子供に魔法修得を教えたり、ふんだんな魔力を用い個人で魔法を請け負っている。大掛かりな魔法を必要とする王宮から依頼を受ける事も、複数の人と協力し合うこともあるそうだ。

「魔法は怖くないよ、正しく使うことばできればね」

と語り口調も柔らかい。

 成績は悪くなかったカズマは真面目なのも取り柄だ。頑張ろうと気合いを入れる。

 

 初日の今日は魔力の流れを覚えることが課題だと、立ったレスターの右手に向かいから左手を合わせるように指示がある。

 言われた通りリラックスして力を抜くよう努力すると、ふいにレスターと触れ合う左の掌から電流のような感触が身体に流れ込んだ。

 驚いて手を離そうと無意識に一歩下がるが、逆にレスターが前に一歩前進する。

 お互いの掌はまだ繋がったままで、流れ込んだ何かはカズマの全身を巡り、入ってきた時と同じように左掌から出て行った。

 レスターは目を細めてカズマを見る。

 先程までの優しい笑顔ではないが、楽しそうに口端を持ち上げた。

 何か言いたげに口を開けるがすぐ閉じる。

 カズマは最初から何か失敗したかな、と思ったが何も言われないし、ま、いっか。


「今、私の魔力を掌を通じてカズマに流し、カズマの魔力が混ざりまた私の体へ戻って来ました。感じは掴めましたね。逆に今度はカズマの魔力を私に流すイメージを持ってみましょう」

 早い早い。無理でしょ。

「大丈夫ですよ道ができた今なら」

 心の声も聞こえてるの?怖いなに。

「はい、やって」

 優しそうなのにスパルタじゃん、この先生。

 心を読まれているらしいレスターに、これ以上悪態を聞かせられないと、カズマは渋々先程の姿勢を取る。

「……」

 行かないな。

「一旦『無』になってから集めた魔力の流れを念じてね」

 やっぱり聞こえてない?怖い怖い。

 だが気を取り直してもう一度やってみる。

「集めて、流れる」心で念じる。

左掌が温かくなり、その後しばらくするともう一度掌から全身に戻る感覚があった。

「はい、良く出来ました。今の感覚を忘れないでね。明日も同じ時間に参りますが、今日と同じ授業はもうありません。今日の復習はそうだね、私の代わりに魔力をりんごに流して戻せるよう、明日まで練習を繰り返しておくように」

「……はい」


 数日後、夕食後の紅茶を飲みながら、アルバータに魔法修得の進展を尋ねられた。

 まだ基礎しかしてないけど、始まって数日間、当日の課題は全てクリアできていることを報告する。

「よく頑張ってる」と褒めてくれた。

 アルバータにも聞きたい事があった。

「あの先生、人の心を読んでない?」

と恐る恐る尋ねると、自分でもある程度の魔法が使えるアルバータは、

「魔力を流して戻したら、少しはわかる」

だって。やっぱり。

 どんなにスパルタでも悪口は考えないでおこう。

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