第9話 魔力検査

 翌朝、アルバータと一緒に馬車で王城に向かった。

 昨日、クリスと買い物に行き拉致されたことについては、アルバータやクリスには正確に伝えていない。

 自分が買い物中にいなくなったことでクリスには散々心配をかけてしまい、方々探し回らせて悪いことをしたが、いや俺がした悪いことは、食べ物に釣られたことだけで、俺を攫ったもっと悪い奴がいるんだけど。

 もし攫われたことを話すと、助けてくれた浩輔についても話さなくてはいけなくなってしまうので、それは浩輔の望みに反してしまう。

 理由は聞けなかったが、浩輔と話ができるまでは自分から話す訳にはいかない。


 だからアルバータ家の人々には、絡まれてどこかに連れて行かれそうになったけど、自分で何とか逃げ出して道に迷ってしまったことにした。

 昨日買い物前に、通りの名前を教えてくれていたクリスに感謝だ。

 浩輔と別れた後、がむしゃらに歩いていると、見覚えのある通りに出た。

 攫われる寸前に買い物していた店まで戻ることができたから、そこの店主にお願いして屋敷に連絡してもらうことができたのだ。

 屋敷からは、一旦情報収集に帰宅していたクリスが、馬車ですぐに迎えに来てくれた。

 その後みっちり怒られたが。

 両親に怒られたことを思い出し、少し涙ぐんでしまったら、無事で良かったと抱きしめてもくれた。

 そうして昨夜は疲れてすぐに眠ってしまった。

 

 アルバータと乗る馬車内では、昨日クリスにした言い訳をカズマが1人で話していたが、前と違うのはアルバータも何回かに一回は返事を返してくれる。

 眉間に皺を寄せ聞いてくれていたが、イケメンはそんな表情も美しい。


 クリスには今朝出がけに王宮について教えてもらえた。

 緊張しよく見ていなかったが、大きな建物が王宮で、王様や親族の部屋、特別に与えられた貴族の部屋、客室などがある区域と、政務が執り行われ多くの官吏が働く区域に別れているそうだ。

 王宮の周りには、騎士団専用棟や、課によっては別の建物も建っている。

 先日の取り調べ室のような部屋は、本当に警備隊の取り調べ室だった。

 悪い事はしてないけど、牢屋に直行の可能性もあったんだよね、危なかった。


 城門近くで馬車を降りてからは、アルバータの長い脚で進むスピードに何とか速足でついていきながら、王宮の中には入らず脇道へ入っていった。

 しばらく進むと2階建ての建物が見えその中にアルバータが向かう。当然カズマもついていく。


「しばらくだね。可愛いカズマ。会いたかったよ」

 部屋の一つから出てきたのは一度会っただけなのに親しげなフレデリックだった。

 まあ、馬には乗せて貰って、密着した仲ではあったけど。

 アルバータとカズマに気づいた途端、涼し気な顔に笑顔をたたえ、両腕を広げカズマに近寄ってきた。

 カズマより身体の大きいフレデリックは腕も長い。あれに捕まったら逃れられないと、カズマは慌ててアルバータの後ろに避難した。

 アルバータもフレデリックの歩いて来る左方向の手をカズマを庇うように伸ばしてくれる。

「もう。アルまでカズマの可愛さに目覚めちゃったの。僕が先に見つけたんだからね」

 アルバータを真ん中にしたままフレデリックとカズマが同心円を描くように移動しながら、3人は先ほどフレデリックが出てきた部屋に入っていった。


 3人が入った部屋の奥には既にひとり男がいた。 彼が座る椅子の周りは、何やらわからない実験道具のような小道具と、大掛かりな装置で囲まれている。

 机はもはや見えない程、書類の束や本が、所狭しと積み上げられている。

「やぁ君が異世界からの旅人だね。魔道具課のキュワレスと言います。こちらへどうぞ」

 既にアルバータやフレデリックとは話しが済んでいるのか、カズマは促されて部屋の中央に進む。

 雑然とした室内の中、かろうじて機能している、2台のソファが向かい合わせの応接セットに4人が腰を落ち着けた。

カズマの隣にアルバータ、向かいにキュワレス、その隣にフレデリックが座る。

 「今日はアルバータ公爵様からご依頼のあった、カズマの魔力属性と魔力量を測定していきます」

 キュワレスはカズマに話し掛けながら、横に並ぶアルバータにも確認のため時折目を向ける。

「早速ですが属性から先に調べましょう。まずはこの上に手を翳して下さい」

 キュワレスは、優勝カップのような金色の台座の上に、占いに使う大きな水晶のような球体が載った形状をした装置を、カズマの前に差し出した。

「どちらの手でも良いですよ」

 緊張し、チラッとアルバータに視線を送ると、軽く頷くのが見えた。

 カズマは言われた通り、右手を広げて上部の丸い球の上に被せる。

 手を乗せても球の色がよく見える程大きい。

 すぐに変化が現れないのをやっぱりね、などと思い、手を引こうとしたら

「まだだよ」とキュワレスに止められる。

 少し経ってほんわか右手が温かくなったかと思った途端、球体の白っぽい透明だった色に突然色が変わり始める。

 透明から、所どころが水色、ピンク、紫、オレンジ、黄色、緑色の、絵の具を垂らしたかのように変わり、それぞれの色は混じり合わず、はっきりと色が主張し合っている。

 更に球全体に散っている金の光が、球の周囲にまで溢れだす。

「アッ」

 その場にいる誰もが見た事もない現象に息を飲んだ。

「……次の検査を」

アルバータは何か言いかけたが、気を取り直したようにキュワレスに次の検査を促す。

 キュワレスもただ頷いて、カズマに笑顔を向け違う検査機器の説明を始めた。

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