第7話 異世界での生活
翌日からは一日が目まぐるしく過ぎ去ってゆく。
目覚まし時計などない生活でも、夜はランプの灯りはほの暗く、以前の暮らしより早寝をしているため、自然に早起きできている。
起床し着替えて井戸で顔を洗うと、水汲みや馬の世話をしているロンの手伝いをし、庭師のソンテと一緒に庭木の世話やメイドと一緒に掃除をする。
夜は仕事を終えるとテレビやスマホのない生活では、読書位しか娯楽がない。
試しに巷で流行りの物語だとクリスに借りた本は、言語魔法が効いていて、この世界の文字も認識できた。
物語はラブロマンスで、以前は苦手な分野だと思っていたが、異性同士、同性同士両方あり、世界の違いを感じる内容で面白かった。クリスによると、皆んなその辺の偏見もないらしい。また貸してもらおう。
とはいえ、この世界では本も次々に新しい物が手に入るわけではなく、屋敷ではおしゃべりが一種の娯楽でもあるのか、仕事の合間には皆よく会話する。
カズマも仕事を教えてもらう傍らや合間で、この世界の知識を色々教えて貰えている。
聞いたところによると、魔法が使える素養は庶民でも持ってはいるものの、庶民の魔力量は少なく、生活を便利にするために、火や灯りをつけたり、水を出したりする程度だそうだ。
反対に貴族は魔力量が多い人が多い。王城で働く人も多くが貴族だ。庶民でも貴族でも、特に魔力量の多い人が騎士となることができるそうだ。
アルバータも魔力量が多く、王族を守る近衛騎士に匹敵する程なのだそうだが、公爵様を継いだから、領地経営が忙しくて騎士とはならなかったらしい。
カズマが、魔法のない国で生活していたと聞いた屋敷で働く人々は、始め大変驚いた様子だった。でも仕事仲間はすぐに何も気にしていないように接してくれている。
元の世界ではこうはいかないだろう。
ニュースになり、メディアに追いかけられ、奇異の目で見られて遠巻きに疎外されるのがオチだ。
もしかしてと思い、異世界人はたまには現れるものなのかと思って尋ねると、誰々の従兄弟の息子の嫁がそうだとの噂話程度には聞く話しらしい。
それでも身近にはいないので珍しいのか、皆話しかけてくれ、新しい知識が増える。
この世界での魔法とは、生活に密着したものなんだってことがわかってきた。
アルバータは忙しいようで、毎朝早くに起床し、剣の鍛錬をしてから朝食を摂り、王城へ出勤するかずっと書斎で仕事をしている。
日中屋敷内外を飛び回り雑用の仕事をするカズマとは、殆ど顔を合わせることもない。
稀に出会すこともあり、イケメンポーカーフェイスがデフォルトなのは理解した。
そんな平和な数日が過ぎたある日、早めの帰宅をしたアルバータから自室への呼び出しがあった。
ノックをし「入れ」の返事を聞いてからカズマはアルバータの部屋に入る。
アルバータは、模様の入った重厚な執務机につき、上着を脱いだだけのシャツにジレ姿で書類仕事をしていた。
シャツから肩や上腕の筋肉が盛り上がり、胸の厚みもあり逞しい。
身体だけを見れば剣を握る仕事ばかりしているのかと思っていたが、違う姿も様になる。
部屋に入ってきたカズマがじっと待っていると、サインし終わった数枚の書類を大きい方の書類の山へ乗せ、ペンを置いた。
「生活に支障はないか」
無表情のままカズマに問いかけるアルバータを見て、馬車で無視された初日のことを思い出す。
クリスから報告も行ってるだろうに、屋敷に引き取ったからには心配もしてくれるんだとちょっと嬉しくなった。
「ありがとうございます。皆さん優しく教えてくれるので色々出来ることが増えました」
実際、アルバイト経験もなく受験勉強に明け暮れていた生活から見れば、毎日することがたくさんあり、新しいことや出来ることが増える生活は楽しいものである。
一緒に働く人達も、力仕事も厭わずやってくれる若くて元気な男手を重宝しており、お菓子をくれたりおかずを分けてくれる等、可愛がられている。
そんなカズマを見てアルバータは一つ頷くと、本題を切り出した。
「フレデリックとも話し、明後日にお前の魔力の検査をすることになった。フレデリックも同席する。私の朝の出勤時にはお前も同行するように。 検査で王城に行くことになるから、明後日までに服装を整えておけ。詳細はクリスと詰めろ」
自分では全く魔法なんて使える気がしないが、今後の自分の行く末が掛かっていることでもある。
知り合いの少ないカズマは、身の危険を感じたことも忘れ、久しぶりにフレデリックと会えることにも喜んでいた。
アルバータに了承を伝えると、さっき途中だった庭仕事に戻って行った。
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