第4話 出会い
ガヤガヤと人の話す声がする。微かだった声は次第に大きくなり、気がついたばかりで目を瞑ったままのカズマにも、何人かの人が自分の周りを取り囲み、上の方で声が交わされているのがわかってきた。
だがあくまでも声であって、話しの内容はわからない。カズマにとっては聞いた事もない言語だったからである。
重い瞼を持ち上げ、薄っすらと見えた視界に飛び込んで来たのは、眩しい程の青空と、青空を囲む顔、顔、顔。そして色とりどりの髪色だ。
どうやら先程聞こえた声は、道端で倒れている自分を覗き込みながら、頭上で交わされる人々の会話だったらしい。
「€$☆#%<\*^」
何を話しているかわからないものの、自分に話しかけ、どうやら心配してくれているらしい表情に、ホッとする。
カズマは両手を目の前に持ち上げ、指の数が数えられること、両足が動き痛みがない事を確認すると、頭を持ち上げ、横たわっていた地面から起き上がってみた。
頭上にあった人々の顔は後ろに一歩引かれ、青空の面積が大きくなる。
「ここは何処ですか」
カズマの発声した言語を聞き、人々が顔を見合わせ、またカズマの理解出来ない言葉を交わし合う。
「€$#%<$#\*^☆」
自分は図書館にいたはずだ。
正しくは、図書館にできた白い穴に落ちたはず。 周りの人が話す言葉が高校生の知っている言語ではなくとも、自分の知らない国にも英語を話せる人はいるだろう。
ここがカズマの世界の何処かならばだが。
『ここは何処ですか』
物怖じしないカズマは今度は英語で尋ねてみる。
「€*^$☆#%<\*^」
駄目か。カズマは途方に暮れた。
そこへ、3人の男が自分を取り囲む人々に近づいてきた。どうやら1人がもう2人を連れて来たらしい。
よく見ると連れて来た方と連れられて来た方には服装の違いがある。
連れて来た人は、最初からいた人々と同じようなチュニックのような上衣にベルトをし、上衣と同じような生地のズボンを履いている。
最初からいた人々の輪の中には女性もいたが、チュニックの裾をそのまま長くしたようなワンピース姿だ。
対照的に、連れられて来た方は2人とも若い男で、真っ先に2人が腰に帯剣しているのが目に入る。
服装も見るからに仕立ての良さそうなフリルのついたシャツにスカーフ状のタイをし、丈の長いジャケットを着用している。パンツもスリムなデザインで横にラインが入っており、足元はブーツだ。
揃って長身は同じだが、金髪の男の方はよく見ると、瞳が空と同じ真っ青で上着に着いている飾りが多く、髪を後ろで括っている。
銀髪の男の髪は、肩の長さに真っ直ぐ切り揃られて、歩く度に揺れていた。
顔を顰めながらも上品に見える顔立ちをした金髪の男が銀髪に向けて何やら一言話すと、銀髪の男がカズマに話しかけてきた。
「€$#%<\8*^☆」
先程と同じでカズマには全く理解できないが、カズマもこの状況をどうにかしなければと、日本語と英語で話しかけてみた。
「自分はどうして此処にいるのかわからないが、日本という国に住む、海堂カズマと言います」
そこまで話した所で金髪銀髪の2人が顔を見合わせ頷き合う。
銀髪の男の方が徐に右手をカズマの前に掲げ、掌を向けながら言葉を囁いた。
「<:€〜/°#<:€〜/°#」
爽やかな風が銀髪の男の掌からそよいだ。
銀髪の男の唄うような言葉が途切れた途端、金髪の男が尋ねる。
「これで通じるか?」
先程までは言葉が通じなくて歯痒いとしか思っていなかったが、心が麻痺していただけだったのか、急に理解できる言葉を聞き、不覚にも涙が滲むのを抑えられない。
「あー良かった。でも何で急に言葉が通じるんだろう」
金髪の男がカズマから目を逸らせ、答えないのを見た銀髪の男が苦笑し口を開く。
「言語魔法をかけました。魔法が効いている間は会話や読み書きに不自由ないでしょう。まず貴方のお名前は?」
「まほう?まほうって魔法?」
しばし考えるが、頭が考えることを放棄した。
先程は通じなかった自己紹介をカズマは繰り返した。
金髪銀髪の2人は目配せし頷き合うと、金髪の男は先を歩き出し、銀髪の男はカズマの腕を支え、
「こちらへ」とだけ言うなり2人が元来た方へ連れて行こうとする。
「何処へ行くんですか」慌てて尋ねた。
並んで歩き出すと、2人はカズマより背が高く、当然脚も長いため、カズマは引きずられないようについていくので精一杯となる。
何とか行き先だけでも確認しておきたい。
「着いてくればわかる」
金髪の男はチラッとカズマを見てそれだけ言うと、また前を向きスタスタと足を早めた。
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