第6話<とあるヒーラー視点>

「わあ!」

 目覚めたら大好きな顔が目の前にあってびっくりした。どうやら私の方から腕に抱きついて寝いていたようだ。私は昔から抱き癖があるからね。でも、抱きつくなら私もオスカルも起きてるときに合意の上抱きつきたかった。いや、そもそも合意を得られる可能性は低いのか。

 それにしてもイケメンだよな、とオスカルの寝顔をガン見する。

 少しだけ茶色に染まった肌は健康的で、紅樺色べにかばいろという赤い色をした髪はショートヘアで、黄赤きあかというオレンジ色をした瞳は今は見えなかった。

 この人に会うまでに本当に苦労したな、と過去を思い出した。


 私はもともと普通に両親がいる小さい女の子だった。ただ、両親がいるころの記憶はほとんどない。なぜなら私は捨て子だからだ。

 今世になってからの一番古い記憶は、故郷の道端に一人で放り出されて一人で泣いている記憶。その記憶では、濡れ羽色のお姉さんたち・・・・ライラさんとハンナさんに拾われた記憶だ。確か、2歳ぐらいだったはず。

 私は自分の名前が言えなかった。本当の名前は今でも思い出せない。だから、ライラさんがかわいい名前をつけてくださった。そして、今思えば大変であっただろういろいろな手続きを済ませて、正式に私は二人・・・・正確にはの養子になった。

 当時は記憶すること自体が難しい年ごろだったけど、私は前世の記憶と共に育った。あとで聞いたらライラさんは”私たちがトリガーになった”と話していた。二人の話によると、私の異世界転生のタイプだと前世となる記憶を思い出すことは難しくて、前世にいた世界の人に会うと思い出せることが稀にあるそうだ。

 前世の記憶が鮮明になっていくと同時に、前世の私の最期・・・・無理心中した相手のことを考えるようになった。

 最初はただ”生きてるといいな”と思っていたが、次第に”たとえ来世の存在だったとしても会ってはいけない”と強く思うようになった。好かれようとがんばっていたのに実際は恐怖を与えていたことに反省した。

 でも、会ったときにずっと一緒にいることができる可能性にかけて、自分磨きをがんばった。

 もともと教わっていた回復魔法の腕を一層磨いてみたり、おしゃれをがんばってみたり。振り向いてくれることはないとわかっていても、心のよりどころだった。

 でも、もう一つ問題があった。”そもそも再会できるのか”ということだ。

 どこに生まれたか、名前は何なのか・・・・性別すらもわからないありさまなのだ。情報が一切ない状態で探し出すのは困難だった。

 それでも、ライラさんは探し出す手がかりが一つだけあるといった。その手がかりとは、”自分自身の感覚”だった。

 一緒に転生した生き物の気配は他の人の気配とは違うそうだ。違う気配を探し出すために、沢山の人に会った。でも、16歳になるまでずっと”違う気配”の人は見つけられなかった。

 それが、先日滞在した町の依頼所に入った瞬間、”違う気配”の正体がわかった気がした。

 全身がみなぎるような感覚がした。目の前を見ると、紅樺色の髪をした男性が目の前で討伐依頼の手続きをしていた。相手は自分に気づいてないようだった。

 そこで私は何を思ったのか、急いで宿屋に帰った。今思えばそこで声をかけてもうまくいかなかった気がする。だって、私の顔を見た瞬間相手は前世の記憶を思い出すだろうから。男性はあの町に住んでいた。だから、次の日に見かけたときに私はこう唱えた。

『テクラよ、亜人型最上級モンスターの”バルド”を召喚しなさい』

 他の人にはずっと隠しているのだが、私はモンスターと対話ができて、友好次第では使役もできるのだ。モンスターとの対話の才能、モンスターと友好を深める話術、召喚の才能がそろっていないとモンスターの召喚はできない。出てきたトロルみたいな見た目のモンスターに親指を立てられたあと、私はこう命じた。

『バルドよ、あの男性のことを細かく調べなさい。』

 私は他の生き物の詳細を調べることはできない。だから、モンスターに調べさせることにした。殴らせたら確実に強いのだけど、今回は殺すことを目的としていないので調べるだけだ。まあ、正直本気で殺すなら竜族を呼び出すけど。そして、バルドに見張らせて戦闘に関係ない個人情報も記憶するように命じた。

 次の日、バルドに情報を聞いて紹介所に登録した。自分から会おうとしたけど、それこそ恐怖を思い出す原因になるかもしれない、と臆病な心が悩んでいると、相手から会おうとしてきた。まあ、相手から見たら好条件な相手だろうから、前世の記憶がなければつられるかもしれない。即了承して運命の人と再会した。

 当日、私の前で立ち尽くす彼を見て、一瞬私をゴミを見るような目をして見つめている彼を見て、一緒になるどころか同じパーティーに入ることも望み薄かもしれないと思った。

 でも、彼は私を受け入れてくれた。仲間にしてくれた。だから今の私がある。

 そう思うととんでもなく愛おしく見えて私は彼・・・・オスカルの唇を触った。そうしたらオスカルの黄赤色の目が開いて私は慌てて手をひっこめた。

「おはよう。」

「おはようございます。」

「次からは離れて寝ろ。寝言もうるさかったからな。」

「寝言・・・・?」

 なんか、すごく気になるワードが出てきた。何言ってたの?

「元カノと勘違いしてすごい気持ち悪いこと言ってたぞ。」

「えええええ!?」

 確かに他に好きな人ができたって言って当時の彼女を振ったことはあるけど、それをオスカルに言ってしまうのは恥ずかしすぎる!私は顔を真っ赤にして、何も言わずに起き上がって退散した。

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