ソグノ~レアルタ

第5話

「よし、出発するぞ!」

「うん!」

 ついに出発することになった。行き先は隣町のレアルタだ。どうやらレアルタでは討伐依頼が停滞しているらしい。それを一気に片づけながら一気にレベル上げって寸法だ。

 レアルタはここから歩いて3日ぐらいかかる。隣町とはいえ別の町だから時間はかかる。大変だが、がんばらねば。

 30分ぐらい歩いたところで、早速モンスターが目の前に立ちはだかって戦闘態勢に入った。軽い怪我はしたが、これぐらいなら大丈夫だろう。

「今治します!」

「いや、いらn」

 止める前に素早く回復魔法を使われてしまった。この状態どっかであったなと思いながらも、何もわかっていないタヴァーノに注意することにした。

「タヴァーノ、過保護すぎる。この程度の傷だったら一日の最後にかける必要もないぐらいだ。」

「え、過保護なぐらいでちょうどよくないですか?死んでしまったら元も子もないですから。」

 本気で心配している表情と声色だったが、回復魔法を使いすぎてMPが切れて死ぬと、仲間にした目的である”復讐”することができなくなる。復讐するなら死んだほうがましなぐらいの生き地獄を食らわせてやりたいからな。

「ほら、行くぞ。」

「は、はい!」

「あと、MPを節約しないと死ぬぞ?」

「わ、わかりました!」


 あれから数時間が経ち、夜になった。モンスターもそれなりに倒した。そうしてわかったことは、タヴァーノは自分が攻撃されてもほとんど回復しないということだ。逆のヒーラーはそれなりにいるが、どういうことなのか。タヴァーノの思考が全く読めない。

「そろそろ野営するぞ。」

「はい、わかりました。」

 野営の知識はあるが、実践経験を積んだことはほとんどない。もたもたしていたらタヴァーノがササっと準備をしていた。

「えっと、火打石を」

「フィアンカ」

 そういった直後、薪に火がついていた。いわゆる炎魔法を使ったのだろう。

「どうして使えるんだ?」

「野営するのに便利なので、戦闘に使えない程度に使えるんです。」

 なるほど、確かに使えたら便利かもしれない。でも、一つ疑問がある。

「回復魔法使いは攻撃魔法を使えないんじゃないのか?」

「いや、そんなことは全然ないですよ。ただ、戦闘における出力の仕方が違うんです。だから、使えても効果が弱いんです。」

「何が違うんだ?」

「攻撃魔法使いは基本的に全力で魔法を使っています。全力で魔法を使うと威力が高くなりますから。」

「回復魔法は違うのか?」

「はい、回復魔法は”相手の属性の強さ”に合わせることで回復の量が多くなります。」

「属性の強さってなんだ?」

「そもそも世界には属性が8種類あるのはご存じですよね?」

「うん、知っている。」

 確か、炎、水、風、地、冷気、電気、光、闇だったはず。とはいえ、物理系が属性の種類を全部暗記していることはあまりないが。

「その要素プラス属性には強さがあるんです。0から5まであります。例えば通常の人間なら光属性の2ぐらいですね。そして、現代日本におけるDNAと一緒で、同じ強さになることはありえません。」

「細かく属性の強さを表すときはどうやって表すんだ?」

「少数や分数で表すことが多い印象ですね。」

「わかった。つまり、”全力を出す”攻撃魔法使いと”相手に合わせる”回復魔法使いは、セオリーが違うってことか。」

「そういうことです。ですから、攻撃魔法と回復魔法を両立することは難しいんです。」

「なるほど。そういえば、結界の強さはどれぐらいなんだ?」

「モンスターが入らないぐらいで、最低限ですよ?」

「明るくないか?」

「まあ、昼間よりは暗いと思いますけど、明るいですよね。」

 タヴァーノはそう言っているが、俺にとっては昼間と遜色ないぐらい明るい。おかげで、タヴァーノの顔が綺麗に見える。

 肌は薄橙で適度に白く、髪色は花紫という紫色でウェーブがかかっており、輝いた瞳の色は天色あまいろという青い色をしている。そんな可愛らしい色な反面、顔は華やかで大人っぽい輪郭をしていた。正直、ライラさんより大人びているかもしれない。正直、ライラさんは見た目だけ見たら子供っぽいかわいい感じがするけど。

 タヴァーノは会ったときから黒いローブを着ている。本人曰く、”汚れを気にする必要がないから”だそうな。まあ、汚れを気にする必要がないのは大きいのは知っている。

「タヴァーノ。」

「あ、テクラでいいですよ。」

「タヴァーノ、そろそろ寝るぞ。」

「・・・・はい」


 そう、ここまではよかったんだ。どうしてこうなったの?

 困惑している今の状態はタヴァーノと俺が並んで寝ている状態だ。いや、野営のテントがそこまで広いわけではないから、おかしくはない。おかしくはないのだが。

「むにゃむにゃ・・・・かおるは、他に大好きな人がいるんだ。」

「・・・・」

 そう、わざわざ端っこで寝ているのに、わざわざタヴァーノが寄ってきて腕に抱きついてきているのである。別にいいのだが、女性経験がろくにないせいで緊張して眠れない。さて、どうしたものか・・・・。

ゆうっていう女の子なんだ。美女でかっこよくてセンス良くて。何より、僕のいうことを興味深く聞いてくれるの。だから、他を当たってね。・・・・むにゃむにゃ・・・・」

「・・・・」

 しかも、寝言で何かを言っている。言葉からして元カノに向けた言葉なのだろうが、俺にとっては当時のストーカーを思い出して恐怖の感情が浮かび上がる。

 ちなみに、優が俺の前世の名前で薫が相手の前世の名前だ。それと、前世ではブスと言われたことはあるが、美女と言われたことはない。しかも、わざわざ日本語でしゃべっているのだ。この世界の共通語でも違和感がないのに。余計に思い出し恐怖が浮かび上がる。

「おやすみなさい。」

「・・・・おやすみ、優ちゃん。・・・・また来世で会いましょう」

 言われた瞬間、全身に鳥肌が立った。その言葉は無理心中のときに言われた言葉だ。怖い怖い怖い。

 オスカルはテントの中で眠れない夜をすごした。

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