第2話

 これは俺の前世の記憶。前世で俺はオンラインゲームをやっている女子高校生だった。

 俺は4人組を組んで、全員と仲良くなって、信頼関係が積み重なってリアルで会うことになった。それが地獄の始まりだとも知らずに。

 4人組のうちの男の一人がストーカーになってしまった。悩んで、でも誰にも言えなくて、拒絶しても効果はなかった。怖かったし、知り合い程度の人に支配されるのは想像以上にきつかった。

 ある日、泣いているところを親に見られて、警察とかに掛け合って接近禁止命令を出してもらった。これで解放されるって思ってた。あの時は。

 確かに一ヵ月ぐらいは恐ろしいほどに平和だった。でも、一ヵ月ぐらいたったときにストーカーの男が急接近してきて、ナイフを刺された。倒れている間に男もナイフを自らの胸に刺していた。そのまま無理心中されてしまった。

 そして、その次の記憶がいわゆる”異世界”の記憶。どうやら死んだあと異世界に転生してしまったらしい。

 でも、どうして転生したあと男になってしまったかはわからない。別に今まで”男性”として生きてきたのだから特に問題はないが、性別が変わる可能性があったとは聞いてない。だからと言って俺は異性愛者だが。多分。

「あの・・・・」

 あ、そうだった。この女性と会った途端に前世の記憶を取り戻して、席にも座らずに立ち尽くしていたのだった。とりあえず席に座った。

「なんだ?」

「前世の記憶を取り戻したの?」

「へ?なぜわかった?」

「取り戻したのね?」

「・・・・はい。」

 ついうっかり口を滑らせてしまった。それにしても、どうして前世の記憶を取り戻したことがわかったのだろうか?そもそも、どうして人に会っただけで前世の記憶を取り戻したのだろうか?この手のことに全然精通してないから全くわからない。

 座って呆然としていたら、タヴァーノが土下座した。テンパっていたら相手が心の底から反省しているような声色で言葉を発した。

「ストーカー行為をした挙句殺してしまって大変申し訳ございませんでした。許されなくてもいいです。大変ご迷惑をおかけしました。なんでもします。好きに言ってください。さげすんでください。だから、私の罪を償わせてください。」

「どういうことだ?」

「前世でやってしまったんです。」

 なるほど、納得した。つまり、タヴァーノの前世があの男ということか。正直、前世のストーカーの過去を許したわけではない。でも、声色を聞く限り本当に反省しているように聞こえる。

 だからこそ。

「まあまあ、座ろう。」

「は、はい!」

「今何歳なの?」

「16歳です。」

「そうなの?俺は二十歳はたちになったばっかりだよ。」

 確か、前世では俺18歳相手20歳だったっけ。年齢差と性別が反転したのか。

「回復魔法を習い始めたきっかけは何だったの?」

「物心ついたころから二人の女性と一緒に旅をしていたんです。その二人の女性から回復魔法を教わりました。最初に魔法を使ったのは3歳ぐらいのことでした。」

 魔法歴13年ぐらいか、年齢の割には長いな。それと、環境的には孤児か?大変な境遇なんだろうが、ストーカーの過去のせいで素直に同情できない。

「俺についてこいって言ったらついていく?」

「はい、ついていきます!」

「じゃあ、まず討伐依頼を一個だけ受けよう?」

「わかりました!」

「早速受けよう?」

「はい!」

 よし、釣れた。俺の作戦はこうだ。まず、過去を許した雰囲気を出して平然と仲間に加える。タヴァーノは許された気になってほいほいついていくだろう。でも、許したとは一言も言わない。逆に、糾弾もしない。ただ、仲間として使だけ。必要以上に触れたりもしない。仲間でも距離をとる。少しでも距離を近づけたら”距離が近い”とだけ表現する。

 それだけだが、タヴァーノにとっては非常に残酷で効果的な復讐だろう。俺に未練があるかどうかはわからないが、少なくとも謝罪しに来たということは、俺に対して悪いと思ってるからであって、そんな態度を取られる方が下手に糾弾するよりも傷つくだろう。

 復讐する心の準備は整っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る