土くれ遊びの終焉

 ギルドの二階にある部屋をノック。

 はい、という凛々しい声が返ってくるのを待ってから、


「キョウカ・アキツネ、入ります」と声をかける。


 中ではリリーラが今回の騒動について報告のための書類を作成している最中だった。後ろには変わらず二人の兵が控えている。


「キョウカ、よく来てくれた」

「いえ、近々領主町に戻られるとうかがったものですから、その前に挨拶を、と思いまして」

「そんなことをせずとも、貴女のところには私自ら足を運ぶつもりだったのだがな」


 そう彼女が笑う。


「傷はどうだろうか?」

「かなり癒えました。もう冒険者として活動を再開しても問題ないだろうと」

「何よりだ」


 そうリリーラが頷く。


「結局、待機を命じて、それが裏目に出た。貴女が私の想像以上の力を持ち、敵を破ってくれたから良いものの……もしそうでなかったらと考えると今でも寒気が走る。本当に申し訳なかった」

「いえ、あの場で魔族に別動隊がいるとは誰も思いもしませんでしたから。リリーラさまが謝られることではありません」


 だが、と言いかける彼女に、「それに」と私は言葉を続ける。


「今回のことで私の冒険者ランクをCランクにしてはどうかという声があるそうです。冒険者として考えるならランクは高くて悪いことじゃないと思いますから」

「単独で相応の数の魔族を倒したのだ。当然のことだと思う」


 リリーラはそう頷いた。

 彼女は土くれでもなんでもない。どんな医者や薬師が見ても彼女は間違いなく人間だと言うだろう。

 簡単に言えば彼女はクローンと言ったところだろうか?

 ただ、普通のクローンとはもちろん違う。

 外見は当然のこと、記憶や知識を完全にトレースされた人間である。

 彼女は自分のことを、無事に私の傀儡を倒し、キャンプからこの町に戻って来たリリーラ・ヴィ・フラーレンだという風に信じ切っている。いや、信じているというのはおかしな言い方かもしれない。目の前の彼女はもはやこの世界で唯一無二のリリーラと言って良いはずだ。

 これが、私があの死神との契約で新たに得た力だった。

 私の本来持つ創造の力をより高度に発展させたものと言えるだろう。まだ全てがわかっているわけじゃないが、それでも便利に使えるのは間違いない。

 しかし、これだけの力を得た代償はなんなのだろうか?

 新たな力を探るとともに私に欠けた何かがあるかというのも探していたがそちらについてはさっぱりだった。

 もちろん寿命などというものなら探したところで見つからないのは当たり前だが、あのうさんくさい死神がそんな真っ当な代償で力を寄こしたとは思えない。力を使えば使うほど何かしらを失うという可能性もあることを考えると、この新しく得た力も慎重に使う必要がある。


「キョウカ、今晩は空いているだろうか?」

「ええ、特に用事などはありませんが……何か?」

「いやなに、貴女にはこの町にきてからあれやこれやと世話になったのに、まだ一度も共に食事をしたことがなかったなと思ってな」

「そうでしょうか? キャンプでなど、幾度か食事を共にしたことがありますが?」

「ああいうのはいわゆるミーティングというやつだ。共に食事を楽しむというものじゃないだろう」


 そうリリーラが笑う。


「確か町の中央……教会の近くに評判の良いレストランがあったな?」

「ありますね。とは言っても私などが食事をするには少々ためらうくらいの価格ですが」

「もちろん今日はおごらせてもらうさ。夕方の十八時。どうだろうか?」


 問いかけてくる彼女に「わかりました」と返事を返す。


「楽しみにしておきますね」



 出立の日。

 私は冒険者の仲間たちと共に町の入り口まで彼女を見送った。


「本当に世話になった」

「いえ、リリーラさまこそ、この度の討伐、本当にありがとうございました。もしリリーラさまがいらしてくださらなかったら、今でもこの町は混沌としていたことでしょう」

「なんてことはない。私は自分の責務を果たしたまでだ」


 そう言ってひらりと馬にまたがる。


「それでは、そろそろ行くとしよう」

「はい」

「もし私のいる領主町、ガルドに来ることがあれば是非に寄って欲しい。私が直々に案内しよう」

「本当ですか? それでは、その日を楽しみにしておきます」


 こうして、土くれの魔族を中心とした騒動は幕を閉じた。

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集団強姦致死からの異世界転生 ~魔族の姫は悦楽を好む~ 猫之 ひたい @m_yumibakama

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