人のぬくもり

「ちくしょう! いったい何がどうなってんだ!」


 苛ついたように言うギルドマスターに私はただうつむくことしか出来なかった。

 朝、起きた時にはすでに少女が忽然と姿を消していた。そう慌ててマスターのところに報告に行き、手の空いている冒険人を含めて大がかりに町全体を捜索したが少女の姿はどこにもなかった。


「すみません……一緒にいた私が少しでも何か気づいていれば……」

「いや、あんたを責めているわけじゃない」


 ガシガシとマスターが頭をかく。


「むしろあんたらを二人だけにしちまった俺の判断ミスだ。あんなことがあった後なんだ。見張りの意味も込めて誰か残しておくべきだった。チェストンとライアートのことといい、フィノイ村の連中が狙われている可能性があるのはわかってたのに、俺もここまで焼きが回ったか……」

「でも、だとしたらどうして私は無事なんでしょうか?」

「わからん。流石にあんたにまで手を出したら気づかれると思ったのかもしれない。一度に二人となると手間も増えるだろう。今回は危ない橋を渡らず、幼い少女だけを連れ去ったとしてもおかしくない」

「と、とにかく、もう一度探してみましょう!」


 必死の形相をつくりながらそう提案し、マスターはそれにうなづいた。


「ただ、あんたは一人になるな。もしかしたら誰かがまだあんたを狙っている可能性がある」

「その辺りは俺たちに任せてください」


 リストが言い、メレデリックが頷いた。


「いざって時に俺たちがどうこう出来るかはわかりませんが、いないよりはマシなはずです」

「ああ、よろしく頼む」


 そうして町に冒険者たちが散らばったが、もちろん少女が見つかるはずもなく時間は無為に過ぎ去っていった。

 少女は今頃城で女中たちにいいように遊ばれているはずだ。



「キョウカ……なんて言ったら良いかわかんないけど、あんまり気を落とさない方が良いよ」


 夜。ギルドが私のために取ってくれた宿にやってきたロレットはなんとも表現しがたい顔でそう言った。


「村のことは当たり前だけど、女の子がいなくなっちゃったのだってキョウカの責任なわけじゃないし……」

「でも……私が変な物音にでも気づいていたら……彼女がどこか連れ去られるかしてる時、私はすぐ横のベッドでバカみたいに寝てたんですよ?」

「キョウカだって急なことで精神的にも肉体的にも疲れてたんだもん、仕方ないよ。どんな一流の冒険者だって気づけなかったとあたしは思う」

「ロレットさんは優しいんですね……」

「ううん、あたしは本当にそう思ってる」


 ポスンとベッドに腰かける。


「もしよかったら、あたしも今日ここに泊まって良いかな?」

「ここに泊まるって?」

「いや……その、色々あって、外には見張りの冒険者さんがいるけど、それでまた夜に部屋に一人で寝るのって怖いんじゃないかなって思ってさ。あたしなんかじゃ頼りないかもしれないけど、それでもいるといないとじゃ全然違うでしょう?」

「でも、この部屋ベッドは一つしか……」

「そんなの、ほら!」

「きゃっ!」


 彼女が私を無理矢理に抱きしめるようにして一緒に横になる。


「こうしてくっついて寝れば、ちょっと狭いかもしれないけど大丈夫だよ」


 そんな言葉に私は思わずといった様子で小さな笑いをもらした。


「もぅ、なんで笑うのよ?」

「いえ……ありがとうございます」


 本当なら彼女も適当にどこかのタイミングで食べて捨ててしまうつもりだったが、ここまでされて悪い気は起こらない。

 こういう人間がしもべの一人としていても良いかもしれない。

 私はその日狭いベッドでロレットと二人して並んで寄り添うように眠った。

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