パーティーへの誘い
ギルドを出て少し行ったところにある店屋は酒類の提供はしていないようで、ギルドの酒場よりも幾分も落ち着いていた。ただ、カウンターの向こうには酒瓶らしいものもあるから昼はレストラン、夜はバーという形をとっているのかもしれない。
人の少ない時間帯で店内は空いており、大テーブルの向こうに三人が座り、私はそれに対する形で腰を下ろした。注文を取りに来た店員に適当なドリンクを頼んでから三人の中で真ん中に座った男が言った。
「俺はリスト。一応このパーティーでリーダーをやってる。で、こっちは幼馴染のメレデリック。で、こいつがロレット」
彼がポンと少女の頭に手を乗せた。
「俺の妹で、今年になってパーティに加わってくわわったんだ。今年で十六になるんだが、あんたと結構年が近いんじゃないか?」
「そうですね。私は今年で十五になります」
適当にそんなことを答えると、ビンゴ、とでも言うようにリストはローレットに目配せをしたが、彼女はあまり乗り気ではないようで、軽く視線をそらせた。それをフォローするようにメレデリックが口を開く。
「ちなみに俺とリストは今年で二十五だ。全員この町の出身で……まぁ、要するに身内だけの小規模パーティだな」
そう彼は苦笑した。
「それで、あんたの名前は?」
「私はキョウカ・アキツネ。重々承知だとは思いますが、先ほど冒険者になったばかりの、駆け出しとすら言えない冒険者です」
「出身はどこなんだ? 町の人間じゃないだろう?」
何気なく問うてきたリストに瞬間的に頭を回す。
この世界の町や村がどういった関係にあるのかわからない。検問の時と同じように安直に答えて良いものだろうか? が、だからと言って誤魔化してもこの世界のことに詳しいわけじゃないのは変わらないのだ。変に取り繕っても墓穴を掘るだけに違いない。
「フィノイ村です」
「へぇ、フィノイ村からか」
「村をご存じなんですか?」
さり気なく問うと、リストは「いや、名前を知ってるくらいで実際に行ったことはない」と答え、それに私は小さく安堵した。
「ここを基点にしてる冒険者にフィノイ村の出のやつはいたかな?」
「どうだろうな? ここを基点にしてる冒険者も少ないようで案外いるし、いないとは思わないが……」
「それより、どうして貴方がたは私に声を?」
話題を掘り下げられると困る。少し強引だけれど、言葉を切るようにして私は言った。
「新しい仲間を探しているということですが、手当たり次第に声をかけていたりするのですか?」
「いや、流石に手当たり次第ってわけじゃないな」
「けど、こうして誰かを誘うのは最初じゃない。まぁ、それがどうにも上手くいかなかったからこうして貴女に声をかけさせてもらったわけなんだが」
そうメレデリックが小さく笑った。
「リストさんとメレデリックさんの冒険ランクは……」
首から下げられているドッグタグを見やる。そこにあるのはFランクのものよりか幾分も立派なものだった。
「ああ、俺らはCランク。一応なんだかんだペアで七年以上やってきたからな。出世株ってわけじゃないが、堅実にやってきてる方だとは思う」
そうリストが言ったかと思うと、
「どーせあたしはまだEランクですよ」
それまで黙って場に座していただけだった少女……ロレットがぷいとそっぽを向くように言った。
「まだ何も言ってないだろ」
とリストがぐしぐしと頭をなでるようにした。
「わりぃな。コイツ、人見知りのところがあって初対面だと誰でもこうなんだよ」
「別にそんなことないもん」
今度は頬を膨らませる。
その表情の豊かさと年齢より幼さの見える姿はどこか好感が持てた。いや、好感が持てたと言うより私の食指が動いた、と言った方が正しいかもしれない。
「お兄ちゃんたちはこう言ってるけど、別に無理してこんな野暮ったいパーティに付きあってくれなくても良いのよ? ティルーデさんが有望株よ、って合図してくれたからこんな感じに声をかけたんだけど、あの人が有望株っていうくらいだもん。大きなパーティに入ればきっと上手に育ててもらえるわ」
「あ、こら! それは言うなって……」
「有望株? どういうことなんです?」
私が首を傾げると、リストが苦笑いを浮かべた。
「いや、俺ら全員この町の出身だって言っただろう? 実を言うとティルーデさん……あんたと話していた受付のギルド事務員だな。ともかく、そういった人たちとも結構な顔見知りで、良い人がいたら言ってくれって頼んでんだ」
「けど、それが上手くいったことはないけどね」
「それにはお前のせいってのもあるだろうが。毎回毎回良いところで茶々入れるから、まとまるもんもまとまらないんだろ」
「で、どうかな?」
リストの言葉を代わるようにメレデリックが言った。
「あー……いや、こういうのはすぐに決めちまうもんでもないし、少し考えてからでも全然良いんだけど。出来れば……そうだな、来週の――」
「良いですよ。入れさせてください、このパーティーに」
あっけらかんと言った私に三人は総じてきょとんとした表情を浮かべた。
「どういう事情があろうと、こうして最初に声をかけてくれたんです。これも何かの縁かなって思いますんで」
「ちょ、ちょっとちょっと!」
少しの沈黙が辺りにただよってからロレットが割って入る。
「そんな簡単に決めて良いの? お兄ちゃんたち、本当に出世株でもなんでもないよ? 一応はCクラスはCクラスだけど、Cクラスの底辺支えてるみたいなものだし、私だってお世辞にも出来た魔法使いじゃない……って言うかどちらかと言えば落ちこぼれだし、ティルーデさんがおススメっていうくらいだから結構な使い手なんでしょう?」
「そんな、私なんて実践経験もロクにない本当に素人なんですよ。頭でっかちで多少は魔法は使えますが、実際に役に立つかどうか……」
「でも――」
少し困ったようにするロレットに後ろからリストが「じゃ、じゃあ、とりあえず今から一つ依頼を受けてみるのはどうかな」と言葉を切って入ってきた。
「それで相性が悪くなかったら本格的にパーティーに入ってくれる、っていうことで考えてくれないか?」
「ええ、構いません」
そう私が微笑むと、男二人がよし、とでも言うようにぐっ、と拳を握った。ただ一人、ロレットだけが少し視線を逸らせるようにそっぽを向いた。
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