人間社会

 小娘と仮初めの友情を築いていくと同時に、私は人間社会についても徐々に情報を集めるようにしていた。単発的にあの村のように遊ぶだけならそこまでする必要もないが、一度クリアしまったゲームで全く同じ遊び方をすることほど退屈なこともない。

 気狐の話を聞くに、この世界にある、ある程度の大きさの町は城塞都市――と言うと少し違ったかもしれないが、私の知識ではそれに近いもの――が多いようだった。塀や堀で周囲を囲われ、通行口には検問所が設置されている。


「でも、一応国に所属しているのよね?」

「はい。町も自身が所属している国に対しての認識はあるようです。が、それは国同士での戦などが起こった時のためのようなもの」

「となると、普段はその限りじゃない、と?」

「はい。ほとんどの町は大きな自治権限をもっており、兵に関しても国に属している者と町に属している者がいるようです。姫さまはお姿を変化させることも容易く出来るのです。興味があるのなら実際に見てきてもよろしいかと思いますが」

「検問というのはどの程度のものかわかる?」

「残念ながら、詳しくはなんとも。ただ、有事でもない限り検問とは言っても一般人を相手にいきなり疑ってかかるわけでもないでしょう」

「だけど、ただ観光しにいくっていうのもねぇ……」


 そこで好みの女性をナンパか……それこそ強姦でもしろというのだろうか?

 自分で考えて思わず吹き出してしまった。


「姫さま?」

「いいえ、何でもないわ」


 くだらないことを考えたとでも言うように手を振った。まかり間違ってもそれは魔族の姫がやるようなことじゃないだろう。

 魔族の姫。

 ふと思ったことだが、今の自分は魔族の姫君なのだ。ただ欲望のままにわがままをやる。それだってある種の姫らしさがあるが、それを姫の器ということで考えたらどうなのだろうか? 今まであまり考えてこなかったことだが、私は姫として何かを負うべきなのだろうか?


「もし姫さまが広く人間の社会で何かをなさろうとお考えながら、冒険者、ひいては冒険者ギルドが利用出来るのではないかと思われます」


 気狐の声に思案の海から帰ってくる。


「冒険者ギルド……この前襲った村にもBクラスの冒険者なんてものがいたわね、そういえば。それで、具体的にはどういったものなの?」

「町は各々で違う立場を取っていることが多いのですが、そんな中で共通しているのは冒険者ギルドと呼ばれる集団なのです」

「冒険者……」

「いわゆる荒事を任されている職業と私は考えています。気性の荒い動物や森や山に住む知性の低い魔物の退治……行商人を野盗から守る護衛のようなこともやるのではないかと」


 彼女の考えはおおむね私の考えと違うようなものではなかった。


「そして、ある程度の大きさになると町には大抵冒険者ギルドの支部というものが存在しており、冒険者はある程度どの町でも身分を保証されているようです。何かするのに利用するにはもってこいのものだと具申いたします」

「ここから考えて一番近い町は……」

「ここ……でございますね」


 壁に貼った地図を気狐が指し示す。


「どうやら、グーベルクという名前のようです」

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