生誕

意識の始まり

 温かい海の中でゆらゆらとたゆたっているような感覚だった。

 何時間。何十時間。何百時間。どれだけそうしていたのかわからない。ただ、心地の良い世界で永遠という箱に閉じ込められているのではないかと思えた。

 が――。

 ふいに身体に重さを感じた。

 身体が前に引っ張られ、私は何も出来ないまま前のめりに倒れこんだ。

 全身に痛みと泥のような重さを覚える。


「お、お生まれになりました――けどっ」

「このお姿は一体……っ? 赤子の状態で卵核から吐き出されるはずじゃ――」

「考えるのは後です!」


 パンパンと大きく手を叩く音がした。


「これではお湯が全然足りません、急いでお湯の追加を。ありったけ持ってきてください!」

「は、はいっ!」

「それから、御前さまと気狐さまにも連絡してください。手の空いている者は姫さまをお運びする準備に取りかかって」

「か、かしこまりました!」

「今はとにかく出来ることをいたしましょう。みなさん、急いでください!」


 木々がざわめいているような気配に薄っすらと目を開く。身体全体がどこか脈打っているように感じられた。

 生きている? いや、生きている……という表現が正しいのかどうかわからない。だが、どういうわけか意識が再びこうして目覚めたのは事実だ。

 身体を動かそうとするが指の一本すら動かすことが出来なかった。脈打っているくせにすっかりさびついた機械になってしまったようでもあった。


「我々に残された最後の希望です! 万一のことは許されません!」


 無理に動こうとしたからだろうか? 急速に眠気が襲い眠る。

 このまま眠ったら死んでしまうのだろうか?

 ……いや、そういう風にも思えない。わからない……とにかくわからないことだらけだ……。

 そこで、プツンと意識が闇に呑まれた。

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