集団強姦致死からの異世界転生 ~魔族の姫は悦楽を好む~

猫之 ひたい

プロローグ

プロローグ

 後ろ手に手首をつかまれ、一定のリズムで身体が揺さぶられる。

 もう何時間こうされているのかもわからない。最初にあった痛みも嫌悪感もすでに覚えなくなっていた。薄暗い廃ビルの中、辺りに漂うタバコと酒の臭いだけが鼻につく。


 普段と同じように学校から帰っているはずだった。それが、いきなり見知らぬ男四人に囲まれ、叫び声一つ上げる前に無理矢理にワンボックスカーに押し込まれたかと思うと、訳も分からないまま襲われた。最初こそがむしゃらに暴れて抵抗をしていたが、所詮まだ子供から大人になりきっていない学生のそれだ。大の男四人を前に私の抵抗なんてあまりにも無力だった。


 結局、手首をひも状のようなもので縛りあげられ、この廃ビルに連れてこられ、本格的なレイプが始まった。


「あーイキそ。スパートかけるからな。しっかり締めろよ」


 腰を打ちつけられる速度が速くなる。ただ、もう私はそんなものに反応するだけの気力も体力もなくなっていた。肉と肉がぶつかる音が強くなったかと思うと、私を犯していた男がひと際強く腰を押しつけた。


「くぅっ……」


 ややあって私の手首は拘束を解かれた。

 そのままうつぶせにコンクリートの床に倒れこむ。自分の荒い呼吸音と心臓の音がうるさい。もういっそ全て止まってくれれば良いのに。そんなことをぼんやりと考える。


「流石に三回目にもなるとほとんど出ないわ。キンタマの中空っぽ」


 男が笑うように言った。


「これで何回ヤった? 俺ら四人で八回くらい?」

「十回はいってんじゃね?」

「こりゃ間違いなく孕んでるっしょ。誰がパパになるんでちゅかねぇ~?」


 ニット帽をかぶった別の男が私の顔の前でケタケタと笑う。

 後ろではチューハイやらビールやらの缶を持った男が単位がどうのとかレポートがどうのという話をしている。大学生……いや、制服のようなものを着崩しているのもいるからもう少し年下の人間もいるのだろう。


「最初はあれだけ殺してやるだの絶対許さないだの吠えてたのに、すっかり大人しくなったなぁ」

「そりゃあこれだけやられりゃ普通は心折れるっしょ」

「しっかし、もったいねぇよな。気は強いっぽいけど、こんだけ可愛けりゃ彼氏の一人や二人、作ろうと思えば簡単に作れたたろうに」

「まだ子供っしょ? こんな目に遭ってこれから先まともに学校とか行けんの? 受験とかあんのに、不登校とか引きこもりになっちゃうんじゃない?」

「おっまえ、自分でも散々やっといて今更その心配はないわー」


 下品な四人の笑い声が耳に残るが、それを不快に思う気持ちさえもう湧き上がってこなかった。

 が――


「この子、一条さんと同じ学校目指してたんでしょ?」


 そんな男の言葉に疑問が浮かんだ。

 なんで連中が一条先輩のことを知ってるの?


「まぁ、そういったのもあってこういうことになってんだろうよ。一条さん、かなり嫌がってたし」


 男が酒をあおって言葉を続ける。


「今回だって、何て言うの? いわゆる思春期の気の迷いっていうやつナンじゃない?」

「あー、なんか聞いたことあるわ。なんかこう、オンナノコって年上のオンナノコに憧れたりする時期があるって。なんかの講義でやってた」

「それでこんな目に遭うんだから可哀そうっちゃ可哀そうだわな」

「ま、でも今回のことで男の良さがわかったんじゃねーの? 俺たちは真っ当な道に戻してあげたってことよ。ジゼン事業、ジゼン事業」


 それにドッと男たちが笑う。


 一方で私の頭は疑問でいっぱいだった。なんで連中が一条先輩のことを知っていて……私が同じ学校を目指していたことなんかも知っているのだろうか?

 何かがおかしい。

 何かが変だ。

 そう思った時だった。


「もうそろそろ終わった頃かなって思ってたんだけど、ちょうどそんな感じね」


 不意に届いてきた声に私は顔を上げた。


「一条せん、ぱい……?」


 そこにいたのは紛れもない先輩の姿だった。憧れていた学校の制服を着て、凛とした空気をまとっている。ただ、同じ学校に通っていた時の、私に向けられていた優しい表情は微塵もなかった。


「なんだ、思ったよりまだ元気そうじゃない。本当にちゃんとやったの? やり方、ぬるかったんじゃない?」


 そう言う彼女の表情は蔑みに溢れていた。


「んなことないですって、一条さん。もう結構マワしましたから」

「あーあ、この子、全然状況飲み込めてないみたいだよ」

「そりゃあそうでしょ。この子、一条さんの外面に騙されてただけでしょ?」

「勝手に騙したことにしないでちょうだい」


 不機嫌そうに先輩は男に言った。


「盛りのついたメス犬が一方的に言い寄って来ただけなんだから。前から憧れてただの、同じ学校目指すだの。おまけにこれからもずっと仲良くして欲しいって……朝に待ち伏せされて今時に紙のラブレターよ? ほとんどストーカーじゃない」

「でも、実際仲良くしてあげてたんっすよね? 風紀委員の先輩後輩とかで」

「この子、頭も性格もカッチカチに固くて友達だってろくすっぽいないって話だったんだもの。そういう後輩に親身になって相談に乗ってあげる出来た先輩。いかにも内申に好い方向に響きでしょう?」


 そう先輩は男たちに笑ってみせたが、こちらを向いた途端その表情を消し去ってまるで道端に吐かれた汚物を見るかのような目に変わる。


「けど、それでも単なる顔見知り程度の付き合いよ? それを、こうも激しく勘違いされたんだからむしろこっちの方が被害者よ」


 その時になって私はようやくとてつもない間違いをしていたことに気づかされた。

 学校で友達が上手く作れなかった私に、去年からずっと親しく……それこそ先輩後輩の仲を越えて親しくしてもらっていると思っていたのは私のあまりに一方的な勘違いだったのだ。


「良い?」


 先輩がずいと顔を寄せ、蔑んだ目で私を見やる。


「少し仲良くしてもらったからってこれからは変な勘違いはしないことね。アンタみたいな気持ちの悪いレズに言い寄られてうれしい女はいないんだから。尻尾を振るのはこういうサルみたいな男たちだけにしときなさい」

「サルって、一条さん、そんな言い方はひどいじゃないっすか」

「それより、本当にうちら大丈夫なんですよね? 今までいろいろやってもらってたんで協力しましたけど、これ、万引きとかカツアゲとはわけ違うでしょ? さすがにうちらも手が後ろに回るのは勘弁してほしいんすけど」

「約束は守るわよ。パパにちゃんと頼んでおいたから」


 ふん、と鼻を鳴らして先輩は言った。


「いやぁ、持つべきものは高級官僚を親御さんに持つ知り合いっすね」

「でも、最近色々言われてるじゃないですか、えーっと、オショクジケンがどうのこうのとか。本当に大丈夫なんすか?」

「心配しすぎ。この程度、今までのことと大して変わらないわ。握りつぶすのなんて簡単。パパ、警察庁のお偉いさんとも仲いいんだもの。この子が今から警察に行ったって、痴話げんかの仲裁はやってない、って追い返されるわ」

「集団レイプが痴話げんかっすか?」


 発言に男たちがどっと笑う。

 思わず唇に力が入る。

 なんで今までこんな人に憧れ、焦がれていたのか? どれだけの勇気を振り絞って手紙を渡したと思っているのか?

 そう思うと、身体に残っていた僅かな体力が怒りとなってふつふつと湧き上がってくるのがわかった。


「うわあああっ!」

「――きゃっ!?」


 最後の力を振り絞って立ち上がり、がむしゃらに叫びながら先輩に体当たりをする。

 もつれるように倒れこみ、身体に痛みが走るがこの際関係ない。

 私は無茶苦茶に拳を振り上げ、押し倒した先輩に向けて振るった。


「こいつっ!」


 しかし、その抵抗もあまりに無力なものだ。

 私はすぐさま男の誰かに身体を引きはがされると、力任せに地面に投げ出された。コンクリートに身体を打ちつけられ、痛みに呻く。


「――このクソっ! よくもやってくれたわね!」


 次の瞬間、お腹に強烈な痛みが走った。

 靴の先端がみぞおちに入って呼吸が苦しくなる。咄嗟に身体が丸まって守ろうとするが、すると今度は顔を幾度も蹴りつけられた。

 一度二度、三度四度と蹴られ、十を超えた所でようやく足が止まる。

 ぬめりとした感覚が顔にあった。血が出ているのかもしれない。けれど、もうそれを確かめる気力もなかった。全身を襲う鈍い痛み。けれど、それ以上に今までの関係が全て上っ面のものでしかなかったという事実がずっしりとのしかかっていた。


「徹底的に痛めつけなさい! このクソガキ、犯されるだけじゃわかんないみたいだからっ!」


 先ほどよりも勢いのついた蹴りが腹部に入る。胃が思い切りやられたのか、胃液が喉をせり上がり私の口から吐き出された。薄っすらと目を開くと血が混じっているのがわかった。


「ヤッバイ、もろに入ったっしょ、今の」


 一人の男がひゅーと口笛を鳴らす。


「いいんすか、壊しちゃっても?」


 それに先輩が「ええ」と笑った。


「こんな母子家庭の子供一人、どうなったって大した騒ぎになんないわよ」

「やりぃ! ただ犯すのも飽きちゃったところだったんですよ」


 言って、座っていた男の一人が立ち上がる。


「それじゃあフリーキック二番手、いっきマース!」


 腹部へ強烈な蹴りが飛んでくる。

 大の男のそれだ。先輩がやったものとは比較にならない激痛に胃がそのまま吐き出されるのではないかと思うほどだった。

 カエルが潰されたかのような息がもれ、なんとか体を守ろうと動くが、今度は頭部を今まで経験したことのないほどの衝撃が走った。後頭部からの一撃は容赦なく私の脳みそを揺さぶる。

 暴力はある種の脳内麻薬を放出する。

 空気はどんどんと野蛮な盛り上がりを見せ、時間の経過と共にリンチは壮絶なものに変わっていった。


 数時間後。

 全身で傷のないところはなくなり、もはや顔の原型が留めなくなったところで連中は去っていった。

 ひゅーひゅーと細かい息を吐く。

 痛みという感覚はずいぶん前になくなり、今は全身が鉛のように重いだけだった。体が動かないのはもちろんのこと、声の一つも出せそうにない。

 ……私は、死ぬのだろうか?

 そう思った時。


『いやぁ、不運でしたね』


 片目は潰され、もう片方も腫れて半分ほどしか開かない。それでもどうにか目を向けると、真っ黒な布切れをまとった骸骨がそこには立っていた。

 誰?

 思うと同時に骸骨がカクカクと動く。


『厳密に言えば色々と違うところが多いのですが、貴女の知識の中で一番適当な言葉を選ぶなら死神というやつです』


 死神……。

 思わず笑いたくなる。

 やっぱり自分は死ぬのだ。


『ええ、死にます。心臓が止まるのはもうちょっと先ですが、意識はあと十分少々で失われます。ここ、場所が場所ですからねぇ。寂れた埠頭の廃ビル……発見が早くて病院に運ばれれば一命は取り留めたでしょうに、運がない』


 ……それで? 死神が何の用?


『大した理由じゃありませんよ。ただ、たまに貴女のような不幸な死に方をする人がいるのです。そういった方の魂を事務処理的に次の生へと送るのはやっぱり気が引けるもので』


 白い骨だけの指でかりかりとほほをかく。


『そういう時はこうして話し相手になるんです。少しでも気がまぎれるように』


 何それ。

 顔は腫れて動かなかったが、私は心の中でかすかに笑った。

 死神っぽくない。


『死神にだって感情がありますから。そりゃあ貴女のような死に方を面白がって酒のつまみにしてる同業もいますが、私はそうじゃないんで』


 死神がコンクリートのブロックによっこいしょと腰をかける。


『人間、こりごりでしょう?』


 彼がそう問いかけてくる。


『私たち死神も大概なものですが、人間の中にも結構いるんですよ、ああいう連中。なんと言えば良いのか……無力な相手を嬲っていたぶって、即自的な快楽に身を任せて力を振るう』


 ………………。


『貴女だって、たぶん他でもありません』


 私も……例外じゃない?


『ええ』


 こっくりと死神が頷いた。


『正確に言えば人間だれしも、と言ったところですね。多かれ少なかれそういった面をもっているものです』


 そうなのだろうか?

 いや、そうかもしれない。

 今にも意識を手放しそうな頭でそんなことを思う。


『ああ、一つ勘違いしないで欲しいですが、私は別にそういう欲求が悪いと言うつもりはないんですよ。そりゃあ、人間が決めた法律だとか、倫理が道徳が、とかそういうのに照らし合わせたらひどいもんなんでしょう、たぶん。でも、この世の中は理不尽で溢れかえってます。だから、人知れない善行を神様は見てるとか、悪者には天罰が下るとか、そういうの期待する人は結構いるみたいですけどね』


 でも、現実はそうじゃない……。


『ええ、その通りです』


 死神はこっくりと頷いた。


『この世は無慈悲なもんなんですよ、本当に。強いものだけが弱いものを好きにする権利がある。次に生まれる時は、奪う側であるといいですね』


 そう言われたところで私の意識は途絶えた。

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