確定少女は仮面と共に
加奈かすり
第1話旅の始まり①
「おい、首をあげろ」
「死が近しい人にその言い方はないだろう、もう少し丁重に、そして尊敬の意思を持って接しておくれ」
ラスピデス監獄。
世界中のあらゆる死刑囚だけが集められる監獄である。
死刑囚が集められているだけもあり、快楽殺人犯や国家転覆を企てる者も監禁されていた。
この余裕そうに振る舞う上品な少女もまさにその一人だ。
「明日がお前の命日、死刑執行だ」
「それを伝えるためだけに来たのかい?」
「いいや、執行人は俺だ、俺がお前を殺す」
「君は私を殺せるのかい? 見たところ君は二十代前半、顔は仮面で隠れているが、服から滲み出る汗は隠せていないよ」
この監禁の場所は詳しい位置は分からない。だがこの場所は寒い、汗なんて考えることが出来ないくらいには。
「その嫌なところに気がつく目も、明日には見えなくなる。確かに俺は殺すことを躊躇っている、だがこれは命令であり、宿命。逆らうことはできない」
「上の命令には逆らえない······か。それは君がそう決めつけて、罪悪感を減らしているだけではないのかい?」
「······」
仮面を着けた男は喋らない。
この静寂の中、外から轟音が鳴り響く。
同時に周りから『助けて!』など、助けを求める叫び声が聞こえる。
「ほら、事件だよ。君は私と話していてもいいのかな」
――分かっていたかのような口調で言う。
「妙に冷静だな。知っていたのか? この状況が起きることを」
「人聞きが悪いことはやめてくれないかな、明日死ぬ私には恐怖なんてものがないだけ。今の私は、この現状が楽しくて仕方がない」
――不気味な笑みを男に向ける。
それと同時に男は少女の腕を引っ張り、牢獄の外に出す。
「急に痛いな、もっとレディを優しくしてくれよ」
「お前をここから出す」
「急な提案だね、私が死ぬのが恋しいのかな?」
「話は後だ、黙ってろ。この現状なら脱獄はそう難しくはない」
少女の身の丈よりも高い男が少女の腕を引っ張り、走り出す。
広場にでると辺りは火の海で、肉が焼ける匂いと、錆びた匂いが充満していた。
その現状に少女は笑みがこぼれる。
「······素晴らしい。なんて美しいんだ。写真機がないのが残念だよ本当に······。これは記念に撮っておきたかった」
「お前がここに来た理由がわかった気がする」
「気づくのが遅いよ······。私は“死刑囚”なのだから」
周りの警備員は完全に轟音の元へ出払っており、その場には少女と男。そして監獄に閉じ込められた死刑囚が取り残される。
「おい、そこの女と警備の野郎。この惨状を見ろ。今は俺達死刑囚も出してくれ!」
仮面の男は聞く耳持たず歩きだす。
「無視でいいのかい?」
「俺には何も見えないな」
「君も結構残虐なんだね。好きだよそういうの」
「なんのことやら」
そのまま少女と男は歩みを進めた······。
確定少女は仮面と共に 加奈かすり @akneko0312
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