第2話 今世でのスリル

「おーいノマー、こっちに来なさーい」

「お弁当食べるわよー!」

「はーい」


 俺が異世界に転生してから10年が経った。


 ノマという名前で俺はこの中世風の世界に誕生し、順風満帆な生活を送っていた。今俺の名前を呼んだ父さんと母さんと一緒に、ピクニックに来ていることがその証拠だ。


 住んでいる村の近くにある、木漏れ日の差している幻想的な森に囲まれながら、俺は母さんが弁当として作ってきてくれたサンドイッチを頬張る。


「美味しい!」

「うふふ、そう?ならいっぱい食べなさい」


 優しく微笑みながら、俺の頭を撫でる母さん。母さんは村でパン屋をしており、村の中でも美味しいとかなり評判が良い。それにかなりの美人で、村の男たちは皆虜だ。


「そうだぞー!いっぱい食べて体をデカくしなきゃな!」


 父さんに頭をガシガシと乱暴に撫でられる。父さんは村を守る騎士として働いてる為、力が強く少し痛い。そして、こちらも母さんと同じくかなりのイケメン。前世なら間違いなく売れること間違いナシだ。


 さて、そんな美男美女2人の間に生まれた訳だが……これまた俺もかなりイケメン。前世からこの顔だったらなぁとよく思っている。


 2人とも何も問題を起こすことなく、これまで生きてきた善人で出来た普通の家庭だ。まぁ、俺は元犯罪者なんだけどね。


「そう言えば父さん、今日は魔物狩りに行かないの?」


 俺は2個目のサンドイッチを食べながら、父さんに質問を投げ掛ける。女風呂なんていとも容易く覗けるこの世界で、俺が今世で覗かないのには訳があった。そう、俺が今口にした『魔物狩り』だ。


 父さんが魔物狩りに行く時に、一緒に狩りに行かせてもらっているのだ。基本的には父さんの後ろでただ戦いを見せてもらっているだけなのだが、偶に俺にも戦わせてくれるのだ。その時の命のやり取りのスリルと言ったら最高だね!


 そんな事を思っていると父さんは、またかといった感じで答えてくれた。


「うーん、そうだなぁ……あ!最近、ロゥルドさんが畑を荒らされたって言ってたな。多分そんなに強い魔物でもないだろうし、ピクニックが終わったら行ってみるか!」

「やったぁ!」

「ふふ、本当にノマは魔物狩りが好きねぇ。将来は父さんと同じように騎士かしら?それとも冒険者?兎に角気を付けてねぇ」

「うん!」


 前世の年齢なんか感じさせずに健気に喜ぶ俺に、母さんが心配そうに頭を撫でてくる。

 騎士かぁ……うーん、あんまり俺の柄じゃないな。それだったらやっぱり冒険者か。スリルを感じまくりたい俺に合ってるし。


 サンドイッチを食べ終え満腹になった俺は、母さんと花の冠を作ったり、父さんと木の枝でチャンバラごっこをしながらピクニックの時間を過ごした。



 *****



「ノマー、準備は出来たかー?」

「出来たよー!」


 ピクニックが終わってからしばらくして、父さんに呼ばれ俺は駆け足で家の外へ出る。


「よし、しっかりと胸当てと短剣は持ったか?」

「うん、ちゃんと持ってるよ」


 首肯しながら、俺は短剣を父さんに見せる。


「よし、それじゃあ行こうか」


 準備が出来ていることを確認した父さんが俺を抱え上げ、ピクニックに行った森と違う森に入っていく。父さんは軽鎧を着ており、抱かれると少し痛いのだが、そこは我慢するとしよう。何せこれから楽しみな魔物狩りなのだから……


 しばらく森の中を抱えられながら進んでいくと、誰かの声が聞こえて来た。それは人間が出すような声ではなく、薄汚くとても嫌悪感を感じさせる声だ。


 声のした方向に進んでいくと、洞窟のような場所に緑色の肌をした子どもくらいの何かがたむろっていた。異世界定番の魔物、『ゴブリン』だ。


「ふむ、あそこがゴブリン共の巣か」


 父さんは俺を腕から降ろし、草むらの隠れながらゴブリン達の観察を始める。俺もそれに倣ってゴブリン達に目を向けた。


 パッと見は5匹だが、以前にゴブリンの巣を片付けた時はそれ以上居た。恐らくあの洞窟の中にあと数匹は潜んでいるだろう。しかし、数が多いとは言えど所詮ゴブリンだ。父さんレベルならゴブリンに囲まれても何ら問題なく殺れる。


 慢心だって?いやいや、言っておくが父さんはマジで強い。何でこんな村にいるのか分からないぐらい強いのだ。


 俺が3歳ぐらいの時、父さんの身長を優に超える熊を引き摺りながら持って帰ってきたのを覚えている。あの時はホントに目ん玉飛び出るかと思ったよ。


 「よし、じゃあノマ、行ってみようか。4匹は父さんがやるから、後1匹をやりなさい」


 観察を終えたのか父さんが立ち上がり、剣を抜きながら草むらを抜けて行く。俺も短剣を抜き、父さんの後を着いて行った。


 俺達の存在に気付いたのか、ゴブリンが武器を手に取り飛び掛ってきた。父さんが人間離れした剣技で5匹のゴブリンの攻撃を同時に受け流し、俺の方へと軽く1匹を蹴った。


 目の前にゴロゴロと転がってきたゴブリンに目を向ける。父さんが軽く蹴っただけでも少しダメージを負ったようで、少し起き上がる動作が鈍かった。


 起き上がったゴブリンは俺のことを視界に入れると、コイツなら殺れる!とでも思ったのか飛びかかって来た。


 俺はやっぱり所詮はゴブリンだなと思いながら、短剣を構えた。ゴブリンからの攻撃を父さんまでとは行かなくとも上手く受け流し、ガラ空きになった脇腹に刺突を入れる。


 かなり深く刺さったのか、ゴブリンは緑色の血を噴き出しながら地面を転がっていた。俺はトドメを刺すべく近寄り、胸を一突きした。


「大分良くなってきたじゃないか、ノマ」


 ゴブリンを蹴った後、すぐに4匹を斬り伏せた父さんが近寄ってくる。伊達に父さんと一緒に魔物狩りをしてる訳じゃないからな!


「俺も成長するんだよ!」

「ハッハッハ、それは皆同じだぞ。慢心せずに精進するといい」


 父さんは笑いながら俺の頭を撫でる。嬉しかったが、俺はそれを振り切って洞窟の方を指差した。


「父さん!早く中に行こう!俺待ち切れないよ!」

「ハハハ、全くもう……分かった分かった。早く片付けて母さんの元へ帰ろうか」


 苦笑しながら父さんは洞窟へ入って行き、俺もその後に続く。


 中はヒカリゴケと呼ばれる発光するコケに照らされていて、少し神秘的だった。まぁ、全然神秘的じゃなくてその正反対の魔物が居るんだけどね。


 少し進むと、奥からまたあの不愉快な声が聞こえてきた。かなり数の多いようで、ここまで声が聞こえてきている。何かパーティーでもしているのだろうか?それならすぐに解散だ。何せ父さんと俺が来たからな。


「父さん父さん。ゴブリンくらいなら複数でも俺殺れるから、一緒にどっちが沢山殺れたか競い合わない?」

「おっ、そうか?うーん、いいよ。その勝負受けて立とう!」


 父さんに勝負の申し込みをすると、快く受けてくれた。そして、俺の掛け声と共に俺たちは声のした部屋に突撃した。


 部屋の中ではゴブリン達が撮ってきたであろう野菜を大人数で囲み、騒ぎながら食べていた。


 しかし、突然の俺たちの登場に、騒がしかったゴブリン達が静かになる。だがそれも束の間、ゴブリン達は敵意を剥き出しにしながら襲いか掛かってきた。


 俺は抜き身にしていた短剣を構え、父さんも長剣を構えた。


「……さぁ、お楽しみの時間だ」

「?何か言ったかい、ノマ」

「いや、何でもないよ父さん」


 おっと危ない危ない、声に出てたか。気を付けないとな、父さんに聞かれちゃ困る。


「こらノマ、何をボーッとしてるんだ。勝負はもう始まってるんだろ?」

「あ、そうだった。父さんには負けないぞー!」

「いいぞー!その意気だ!」


 父さんとそんなやり取りをしながら、俺は次々と襲いかかってくるゴブリンを捌いていく。


 コレコレ、コレだよ!いつ俺の命が危険に晒されるか分からない状況!うーん!めっちゃくちゃスリルを感じる!!!


 俺は興奮しながらどんどんゴブリンの死体を積み上げていく。横を見ると、父さんも同じくらいゴブリンの死体を積み上げていた。











 3分後ぐらいだろうか、部屋の中を見渡しても生きているゴブリンが見当たらなくなったのは。


 ------------

えちょまです。

次回はノマがまさかの事態に?!

お楽しみに!

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