第9話
何もない。興味がなければやる気もない。そんななのに話しかけてくる嘘くさいやつが隣に来た。
最初の印象はそんなもの。本当は頭がいいくせに、すべてのテストを満点突破もできるのにわざと間違えて点数を落として味方であることを示す。八十点未満はエンドレス追試のテストでは八十二点やら五点やらを取って追試を毎度回避しているのに、定期試験では平均点を取ったり、全教科満点でザワつかせたり。それで遊んでいるように見える。
隣に来たのは機械だ無表情だと気味悪がられて空気になり損なったやつ。『霧のように』という現象は都会育ちだから表現があっているのか自信はないが、うまく存在が掴めない点に於いて、それに類似した表現を使いたくなる。連絡先の交換は孤独の匂いでも嗅ぎつけたか。なんにせよ、何もかもが暇つぶしだ。面白みが少しでもあった方が良いだろう。もしも、叶うならば『ふたりぼっち』として背中を預けられたのなら、などというのは妄言ではある。そんな都合よく人は動かない。
連絡先を交換して、送ってもらったノートをすべて写したあと、改めて礼を伝えた。
「桜葉くん。ノート写させてくれてありがとうね。助かった」
その声はいつもよりワントーンほど高く、女性であることを思い出させる。
「役に立ったなら良かったよ」
快翔もやわらく短い返答で終わらせた。
放課後は相変わらず一瞬で消える翼だが、行方を知る者が増えた。養護教諭、図書館司書、桜葉快翔。大抵は図書館で最終下校まで残っている。
「よぉ」
貸出手続きをしているところに顔を出した。
「何用ですか、ストーカーですか」
聞き慣れた低い声に物怖じせず答える。
「俺とお前の仲じゃん」
相手の顔も見ずにパソコンに学籍番号を打ち込んでいく。
「犯罪臭えげつな…」
顔を上げて向かうは机。
「お前がそうやって軽口叩けるの俺だけじゃん?」
「それは事実」
向かいに座って機械の音を聞く。
「で、ほんとに何用なんですか」
「暇つぶし」
「はぁ…ほんと帰ってください」
無視して快翔は続けた。
「もっと細かくいうと『本当の君』を引き出す遊びがしたい」
「死にたいんですか?」
殺気を纏って問う。
「それなら『本当のあなた』も暴かせてくれるんですよね?あー、心配しないでください。飽きるまでなので」
「もちろん『僕』もそのつもりだよ」
「へぇ〜」
より低音で見定めるような反応。
「まぁいいですよ。『僕』もアンタには興味があるんで。でも今日は読書の邪魔しないでください」
演者 夜桜夕凪 @Yamamoto_yozakura
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