第8話

 体調も落ち着き、週明けの月曜日。先週末もいたかのように誰も翼に声をかけない。ただ一人を除いては。

「久しぶりだな」

 相変わらず、暇そうな隣人だ。対する翼は瞳の奥を射抜くように見つめるだけ。

「あ、そうだそう。いつぞやの返事は『OK』だ」

「…そう」

 己の一部のような速さと正確さでQRコードを差し出した。それを快翔が読み取る。快翔の賑やかな友だち欄に、翼の淋しい友だち欄にそれぞれ加わった。【よろしく】と四文字送る翼に対し、ぺこりとスタンプを送る快翔。

【そうだ、休んだ分のノート送るか?】

【いいの?】

【幸い、同じ授業しか取ってないし、あれだけ休んでたらお前も困るだろ】

【うん】

【ありがと】

 快翔が礼には及ばねぇよ✨と書かれたスタンプを送って現実に戻った。

 時計は八時半を少し過ぎたところを指している。翼は読書に、快翔は待っていた海星に話しかけられた。

「お前、花宵さんとLINE交換したのか?」

「見てての通りだが?」

「凄いな」

「そうでもないが」

「そうか?」

「しようっつったのは花宵だし」

「まじで?!」

「何にそんな驚く?」

「ちなみに、こいつの何に惹かれたんですか、花宵さん」

 海星が読書中の翼にふった。

「ただの興味」

「へ〜」

(興味??花宵さんが人に興味持つんだ⁈)

「いまそれなりに失礼なこと思ったでしょう」

 海星は一瞬にして全身に力が入った。

「もっと言えば、私が人に興味を持つなんて珍しい、に近いことでしょう」

 完全に目を見開く。

「…そうですよ」

 海星は観念して堰を切ったように話し出した。

「俺からしたらあなたの行動動機が全くわからないし、謎すぎる。桜葉に興味を持ったのも全くわからない。クラスの中心人物の快翔と機械として扱われているような花宵さんじゃ、接点が見当たらない」

「…隣の席というのはそれに足るものではないと?」

「だったらなんで、俺のときはそっちから話しかけて来なかったんだよ」

「私に利益があると思えなかったから」

「…桜葉にはあるって?」

「そう」

 怒りに震えた肩。それは何に対する、誰に対する怒りなのか。翼は表情も声色も変えず淡々と話している。それを遮るようにチャイムが鳴った。それは無慈悲にも思考を切り替えろという命令にも取れる。聞き専に徹していた快翔も一時間目のことを考えた。


 何も変わり映えのない日々にただ淡々と浪費されて行く時間に心の中であくびが出る。此処で潰してる時間があったなら他のことができるのではないか?そんなことを毎時間思う。つまらない、という表現でたりるだろうか。『退屈』あるいは『虚無』であってもこのどうにもならない時間に相応しい名前だろうか。

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