第二話【二人で力を合わせ】
「ウォォォォォ!!!!!!!!!」
変異型オークは完全に興奮状態でどんなことをしてくるかわからない。
それでも戦うしか無い。
木の杖をオークに向ける。
「火の加護を与えし者よ、熱き炎で我が敵を焼き尽くせ。『
魔法杖の先端からはメラメラとした炎が灯りそれは球体に形を成す。
一秒もしない間に球体の炎は勢いよくオークめがけて飛んでいく。
オークと衝突すると爆発によって起こった煙と共に熱い空気が押し寄せてくる。
確かな手応えはあった。
だが魔物はそう簡単には倒れないものだ。
「ウォォォォォォ!!!!!!!!」
ダメージを負うどころか先程よりも活力に満ちあふれているようにも見える。
これはやってしまったなんて思っているとオークは手に持っていた木の棍棒をひたすら振り回してこちらに接近してくる。
もしかしたらダメージを受けて馬鹿になってしまったのだろう。
「シュレーナさん、こっち!!」
未だに逃げようとしないシュレーナさんの手を再び勝手に握りオークの棍棒をなんとか避ける。
あ、それと勝手に握ってごめんなさい。
謝罪は忘れないでおこう。
後々面倒になると嫌だからね。
「!!!?」
避けた地点にオークが再び棍棒を振り下ろしてくる。
とっさにシュレーナさんに向かって飛び転がりながらもなんとか回避をした。
「大丈夫ですか、シュレーナさん!」
「私は大丈夫。でもクレイくんの腕――」
シュレーナさんに指摘され確認してみると左腕からかなりの血が流れている。
もしかしたらシュレーナに向かって飛んだ時に地面に落ちていた木か石か、先端が尖ったものに腕が当たり血が出てしまったのだろう。
傷なんて今は気にしている場合じゃない。
早く魔法を放ってどうにかしないと。
「あれ。どこに行ったんだ? ない、ない」
魔法を放とうと思いオークに杖を向けたら手元にはその肝心な杖がなかった。
オークを警戒しながら周りを見渡すと少し離れたところに杖が落ちている。
杖を使わなくとも魔法は使える。威力は大幅に下がるけど。
杖と同等の威力を出せるなんて人物は中々いない。
さらに杖よりも威力を出せる人物なんかもっといない。
つまり子供である僕が杖なしでオークに魔法を放っても痛くも痒くもないということだ。
「シュレーナさんはここで大人しくしておいてください」
「…………嫌、だ」
こんな状況でもさっきの様に泣くつもりなのだろうか。
今どれほど危機的な状況なのか理解していないのか。
「すー、ふぅ」
シュレーナさんは深く息を吸い込み、そして吐く。
そんな動作をしたあと泣いていた目を擦りきりっとした目つきに変わる。
「私も戦う」
オークに杖を向けて一言、僕の顔を見ずにそう言った。
シュレーナさんが自ら選んだ分岐なら僕が拒否をする意味がない。
「わかりました。では少しの間だけで良いので僕があそこの魔法杖を回収する時間を作ってもらえませんか。」
「任せて」
清楚感のある声で頼もしいことを言ってくれるシュレーナさん。
僕は早速杖を回収しに走り出す。
「ウォォォ!!!!」
やはりオークは動き出した僕に反応し棍棒を振りかぶる。
間に合え、間に合え。
心の中で連呼する。
棍棒はもうすぐそこだ。
その時――
「我が敵を焼き尽くせ。『
シュレーナさんの声と共にオークに炎が飛んでいき爆発した。
短縮詠唱……。
まさかそんなことが出来るなんて。
ぜひとも教えてもらいたい。
と言いたいところだが今はそんな状況ではない。
シュレーナさんが時間が稼いでくれたおかげで杖は回収出来た。
さてここからどうするかだ。
「あれは何をしてるんだろう?」
思わず小声で呟く。
オークは棍棒を持っていない片方の手で棍棒をなぜか叩いている。
よく見てみるとその叩く場所には火がついている。
オークは棍棒についた火を消している……そういうことか。
「シュレーナさん!! あの棍棒めがけて一緒に『
「わかった」
僕たちは互いにオークの棍棒に向かって杖を向ける。
「火の加護を与えし者よ、熱き炎で我が敵を焼き尽くせ。『
「我が敵を焼き尽くせ。『
同時に詠唱し先にシュレーナさんの炎が飛んでいく、遅れて僕の炎も飛んでいく。
すると木で出来た棍棒に当たるやいなや火は物凄い速さで広がっていきもはや使い物にならなくなっている。
それでもオークは未だに棍棒を叩き火を消そうとしているのでオーク自体にもダメージが入っている。
「ここで畳み掛けましょう!」
「うん」
シュレーナさんがオークめがけて木の杖を向け詠唱を始める。
「風の加護を与えし者よ、今ここに自然の力を以って竜巻を起こせ。『
詠唱を終えるとオークは激しい風に覆われる。
その風には土や石、小枝などが次第に混ざっていきオークに持続的なダメージを追わせていく。
さらには土が混ざることで風が茶色に変色していくため視界が悪くなる。
シュレーナさんに続いて僕もオークめがけて杖を向ける。
ここはやはり今使える魔法で一番お気に入りので行こう。
「火の加護を与えし者よ、炎を宿し無尽蔵の熱量を放つ数多の球体を顕現させ我が敵を燃やし尽くせ。
『
詠唱を終えると杖の周りにいくつかの火の弾が現れそれらは相手に予測できないように法則性を持たない状態でオークへと物凄い速さで飛んでいく。
ドカーンッ! という激しい音と共にシュレーナさんの風に火が燃え移りオークはものの二秒で火だるま状態に変わった。
***
あの状態でも数分間叫んでいたがしばらくして叫ばなくなり動きも止めた。
僕はなんだかホッとした気持ちになったがすぐに疲れたという気持ちが押し寄せそのまま地面に横になった。
横になると一緒にシュレーナさんも同じ様に横になってきた。
「シュレーナさん、強いですね」
「クレイくんも強かった」
「…………」
「…………」
会話はそこで途絶え木の葉が風に揺られている音しか聞こえてこない。
自然に囲まれたことで心が癒やされたのか、それとも疲れなのかどちらかはわからないがとりあえず眠たくなってきてしまった。
あとは父さん達にまかせ――。
「って、ここどこ?!」
「わからない」
やってしまった。
オークから逃げることだけに集中していたせいでよくわからない方向に進んでよくわからないくらい走りそしてよくわからない場所に来てしまった。
朝出発したから今は昼前か昼過ぎくらいなのだろうか。
どちらにせよ早く帰らないとまずいことになる。
といっても帰る方向もわからないし歩き回る体力もそれほどない。
「……頑張って、歩くしか無いかもですね」
「そうかも」
「じゃあ、そろそろ行きますか?」
「行こう」
そして僕たちは起き上がり杖を手に持ちそれっぽい方向に歩き出した。
***
「星がきれい」
「…………」
「ちょっと寒い」
「…………」
「何か声が聞こえた」
「…………」
夜の森の中。
僕たちは迷子になった。
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