第三話【一瞬の輝きがちょうどいい】
「いたっ」
変異型オークとの戦いで怪我をした腕に簡易的ではあるがバッグに入っていた布でぐるぐる巻きにして血をどうにかしていたのだが時間が経ち布は血で赤く染まっている。
いくつかの小枝を抱えたシュレーナさんが戻ってきて僕のことをチラチラと見てくる。
「何かありましたか?」
「まだ痛むの?」
「数時間前ほどではありませんが一応まだ少しは痛みます」
「ごめん。私のせいで」
「そんな、シュレーナさんは謝らなくて大丈夫ですから。元はと言えば僕の不注意で怪我をしたわけですし。それよりこれからどうしますか? 特に何もないですし――」
そう言って僕は持っていたバッグの中を開け漁る。
中はひたすら花だけが入っている。
「花ならありますけど」
「私にはこれがあるから」
シュレーナさんは自信満々に先ほどから拾っていた小枝を僕に見せてくる。
「その小枝をどうするんですか?」
「これをこうして――」
石を椅子代わりにして座る僕たちの目の前に小枝同士を支え合おうようにして組み立てていく。
それを終えるとシュレーナさんは組み立てた小枝に向かって
威力を調整して小枝に火を起こしたのか。
シュレーナさん、多才だ。
「暖かい」
「ですね」
夜の森ということもあって周りには星の明かりしかなくその中で燃え盛る火はなんともきれいで心が洗われた気分になる。
バッグから取り出した一輪の花を見つめていてあることに気付いた。
「シュレーナさんって花が好きなんですね」
「……どうして?」
「こうして僕に沢山渡してきましたしここに来るまでの道中でもよく花を見てらっしゃったので」
「…………」
少しの沈黙が続く。
そしてシュレーナさんは杖を両手で握りしめて口を開いた。
***
***
一方その頃、村では大騒ぎになっていた。
「おい! 早くここに寝かせろ!」
「は、はい!!!」
森からなんとか帰還した数人の村民が何があったのかを説明し取り残された全員を救助した。
幸いなことに死亡者はおらず皆帰って来る事ができた。
しかしながら重症の者も多く村は完全に混乱状態に陥っていた。
「フェン……どうしてこんな……」
「……完全に、油断しちまった」
横になっているフェンの手を強く握る。
「リシア……すまない。クレイを……一人で逃がすことしか出来なくて」
「それでいいのよ。逃がすことが出来ただけでも……」
すると隣で共に横になっていたギーヌが涙を流しながらフェンに語りかける。
「あそこでクレイくんにシュレーナを連れて行くように言ってくれてありがとうございます……。あの子はきっと一人じゃ無理だった。感謝しています」
「それはこちらも同じですよ。シュレーナさんが一緒にいると思うだけで少し安心出来る。だからありがとうございます」
話している二人の元にロイスがやってきた。
「フェン、まさかお前が負傷するなんてな。普通逆じゃないか?」
「油断したんだ。ただそれだけだ」
「そうかよ。それでだ、俺のとこの馬鹿も、他の家の子とかもよクレイとシュレーナを探したいって言ってんだ」
「だが森の中にはまだオークもいる。それにもしかしたら他にもいるかもしれない。そんな危険なところに子どもたちを連れて行ったらまずいだろ」
「クレイとシュレーナ、二人と歳が違えどこの村の仲間だ。それを諦めて見捨てるなんてここの村民には出来ないだろ。それに森には俺も他の連中も行く。それなら安心だろ?」
「……そうだな。クレイを頼む」
「私からもお願いです。シュレーナ、どうかシュレーナを助けてください」
「あぁ、任せろ」
話を終えるとロイスは二人に背を向け森に向かう者達が集まるところへと歩いて行った。
***
***
シュレーナさんは僕の持っている花を見つめている。
この花が欲しいのかと思い差し出すとその行動を完全に無視して火を見ながら語り始めた。
「昔、お母さんは私に色々は花を教えてくれた。お父さんも花が好きだった。特に一番好きな花はカランコ。あの花を見た時、心が揺れ動いた。それで――」
シュレーナさんが何かを言いかけた時、近くの茂みからガサガサという何かが移動する音が聞こえてきた。
僕はすぐに杖を持ちシュレーナさんを守るように立ち上がる。
夜の森での魔物との戦闘は非常に危険だ。
それが未熟者であればなおさら。
だから出来れば戦いたくはないがいざという時は戦わなくてはならない。
「…………っ」
唾を飲み込み全ての音に集中力を注ぐ。
「!?」
その時僕の真横を刃物が通りすぎる。
これは明確な殺意。
獲物を狩る魔物か。
「火の加護を与えし者よ、熱き炎で我が敵を焼き尽くせ。『
魔法が命中したのか。
僕は急いでその茂みに行き状況を確認する。
するとそこには
「大丈夫?」
「もう大丈夫ですよ。警戒する必要はあると思いますけど」
「……ん」
再び石の上に座り火を眺めぼーっとし始める。
「ふわぁあ」
シュレーナさんは両手をグーにして下に伸ばし口を大きく開けてあくびをした。
今日はオークを倒したり何時間も歩き回ったりしてたしそりゃ眠たくなるか。
それにシュレーナさんはあんまり人と関わるのが苦手みたいだし一日中知らない人といたら精神的にも疲れているのかも。
「眠たかったら寝てもいいですよ。って言っても寝られるような場所はないですけど」
「ある」
あると言っても地べたくらいだ。
一体シュレーナさんはどうするつもりなのだろう。
そんなことを思っているとシュレーナさんは立ち上がり自分の座っていた石をどうにか押して移動させようとしていた。
しかし少ししか動かず大変そうにしていたので代わりに僕がその石を持ち上げるとシュレーナさんは僕の座っていた石の隣を指さしてそこに置いて欲しいと言ってきた。
指示通りに石を置くとシュレーナさんはそこに座る。
続けて僕も同じように石に座る。
「どうしたんですか?」
「…………」
「シュレーナさん?」
「…………」
「何かありました?」
「……おやすみ」
そう一言言ってこちらへ倒れてきて僕の太ももを枕にするように横になった。
一体絶対何があったらそうなるのだろうか。
シュレーナさんって人と関わるの苦手なタイプだったはず。
「…………」
最初はなんでなんだろうなんて考えていたけどスヤスヤと眠っているシュレーナさんの姿を見てこんな僕を信じて安心してくれているんだと思うと嬉しい。
「明日は帰れるといいなぁ」
僕はシュレーナさんを見つめながらそう呟いた。
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