第24話:懇願させてやる

「あーあ、セレナが泣かせちゃった」


「どどどどうしましょうマナ!?私やり過ぎましたか!?やり過ぎましたよね!?」


「まず彼の上から退くところからじゃないか?」


「そうですね!?そうでしたね!?すみません本当に!?」


これだからこの実直バカは。

泣くほどコテンパンにされたシェイル君が悪いというのに。

これほどまで律儀になるものだろうか。


シェイル君から退いたセレナはオドオドとした様子でシェイル君の様子を見る。

先程までの威厳たっぷりの“黄金の戦姫”様はどこへ向かわれたのだろうか。


シェイル君が起き上がる、変わらずに目には涙を浮かべている。


「ごごごめんなさい!私ったら加減も知らずに!」


「シェイル君はよくやったと思うんだが」


「………慰めならいらないですよ」


おや、拒絶されるとは思わなかったな。

今も涙の溢れる目を服の裾で拭い、シェイル君は強い眼差しでセレナを睨みつけるように見た。


「………悔しいかい?」


「ええ、今までの努力が通用しないってこんな悔しいんですね」


口では言っているものの、彼の目は未だに、いや今まで以上に燃えている。

より酷い現実に打ちのめされた経験があるからだろうか、彼の心根が折れる気配は微塵もしなかった。


「………出直してきます、今の僕に“戦姫流”は荷が重い」


彼は決意を胸に立ち上がった。


「おや、諦めるのかい?」


シェイル君が諦めていないことぐらい心を読まずともわかる。

だからあえて彼に発破をかけるように問いかけた。


「勘違いしないでくださいよ、諦めたわけじゃないです」


再びセレナの方へ目を向けた彼は、胸の内に秘めた決意を声に出した。


「そのうちあなたの方から、僕を弟子にしたいって懇願させてやる」


その宣言には流石の私もセレナも呆気に取られてしまった。

まさか『もう一度勝負をしに来る』ではなく、『セレナの方から弟子入りを頼ませる』と宣言するとは。

私の弟分にしては大きく出たものだ、しかしそれでいい。

自身の成長に満足しては人は強くなれない、その観点で言えばシェイル君は誰よりも強くなれるかもしれない。

溢れてしまって笑みが止まらなかった。


「ははははっ!!いいじゃないか!!やって見せてくれシェイル君!」


「威勢は認めましょう、不可能な話ですが」


「迷宮に潜りたいんで先に行きますよ、マナさん」


シェイル君はセレナに一礼して穴の外へと跳躍し、走り去ってしまった。


「………あれでも痴れ者かい?」


「バカ言わないでください、私だって貴族です、人の良し悪しは見抜けます」


宿している悪魔の能力的に人の感情が読める私も人の良し悪しは簡単に見抜くことができるが、セレナの場合は私のようなズルではなく生活の中で身につけたちゃんとした慧眼だ。

人を見る目で言えば私よりも上だと認めざるを得ない、まあそれ以外は全て私の方が上なのだが。


認めたくはありませんが、と一拍置いてからセレナは続きを言った。


「私はあのような目を見たことがあります」


「それはどこの誰だい?」


はあ、とため息を吐き出し、セレナは懐かしむように晴れ渡る空を見上げて呟いた。



「“厄龍”に屈した時に水面に映った私ですよ」



全くもって予想外だった。

まだセレナが“戦姫流”を編み出し次期騎士団長候補筆頭と呼ばれる前の話、王都近郊で魔物が大量発生した時の話だ。


セレナが魔物の軍勢を率いていた“厄龍”と対峙し、そして敗北した。


その後、完膚なきまで叩き潰されたセレナはその後二振りの剣を手に“厄龍”を討伐し、魔物の軍勢を退けることになるのだが。


「“厄龍”に手も足も出ずにボコボコにされた直後ですね、絶対にお前を私の手で殺してやると思った時の目です」


大貴族の令嬢が殺してやるだなんて直接的な表現をするだなんて流石の私もいかがなものかと思った。


「それならば、もしかするかもしれないね」


「いや何がですか」


「彼がキミと同じ道を辿るかもしれないって話さ」


2人とも絶対的強者を相手に敗北し、そして復讐リベンジを誓っている。

その強固な意志をもってして。


「ないですね、彼は素質がないです、教えても彼の今後に水を差すだけです」


「セレナだって最初は素質がなかっただろう?」


「うぐっ………」


セレナは言葉を詰まらせた、わかりやすい。

そう、セレナが“戦姫流”の流派を立ち上げたのは“厄龍”の件の後だ。

それまでは二刀流の「に」の字すら彼女の頭にはなかった。

そんな彼女が今や王国史上初となる二刀流の騎士だ、未来がどうなるかなど誰にもわかるはずがない。


「まずはしばらく見ていようじゃないか、シェイル君の行末を」


「はあ………無理だと思うのですが………」


こうは言っているが、実際のところセレナはセレナでシェイル君のことを多少なりとも認めているのだ。

人の心が読める私がいうのだから間違いない。

というか断る理由が「彼の今後に水を差す」なのだから、探求者嫌いの彼女が「嫌い」ではなく「シェイル君の今後」を理由にしたのだから気に入って入ると思う。

本人はそれにすら気づいていないようだが。


「もういい時間だ、カフェで昼ごはんと洒落込もうじゃないか」


「貴女の奢りですからね」


「それは話が違うじゃないか!」


「当然ですよ!私は大分無茶振りを聞いたんですから!」


「痛いところを突くじゃないか」


今度は私の方が何も言い返せなくなる番だった。




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悪魔義賊〜命の恩人を追いかけて王宮義賊団へ〜 GOA2nd @GOA2nd

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