第16話:デモンズユナイテッドへようこそ
デモンズユナイテッドのギルドホームに到着する頃にはもうぐったりとしていた。
もしかすると精神的疲労は先日の商会の一件よりも大きいかもしれない。
なお犯人は隣で今も笑いを堪えている。
「くく………キミは私を笑い殺すつもりなのかい…?」
相当僕の反応が面白かったようだ、ご機嫌ようで何よりだ。
こっそりこの人には絶対一泡吹かせてやろうと誓った。
「で、全部説明してくださいよ、理解できて無さすぎて怖いんですから」
「ああ、それに関しては問題ないさ」
強豪派閥デモンズユナイテッドのギルドホームの中をマナさんの一歩後ろを歩いていく。
マナさんが立ち止まったのは1番豪勢な扉の前だった。
マナさんは扉をコンコンコンと3度ノックして重い扉を開いた。
「失礼するよ」
中に入ろうとしながら僕を手招きしてくる。
マナさんが敬語(?)を使うような相手、間違いなく目上の人物だ。
失礼のないように、マナさんと同じように一言入れてから中に入る。
「片手間で申し訳ないが、このままで頼む」
中にいた人物は片眼鏡を付けて書類に目を通している。
こちらに目もくれずに積まれた書類の山と格闘するあたり、相当な激務なのだろう。
そして僕は彼のことを知っていた、というより王国民なら知らない人はいないほどの超がつく有名人だった。
「新たな同胞を連れて来たよ、ダビデ殿」
「ご苦労だったマナ」
デモンズユナイテッドのギルドマスター、ダビデ・シェバ・ヘブライ様だった。
ダビデ様はようやく僕の目を見る、鋭い目つきだ、何か粗相をしてしまっただろうか。
「シェイル・フォールンで合っているな?例の商会から人々を救ったという」
「はい」
僕のことを知っているようだった、流石は強豪派閥のギルドマスターといったところだろうか、情報を得るのが早かった。
つい昨日のことだったはずだがもう耳に入れて僕の素性すらすでに知っていそうだ。
黒い瞳が一瞬だけ金色に輝いた気がする。
それに反応して鼓動がドクンと大きくなった。
「ほう、フォルネウスを宿したというのは真実のようだな、此度の件、誠に大義であった」
「もったいないお言葉です」
強豪派閥を率いる者に労われるだなんて、一生に一度すらないだろう。
「それで、シェイル君に諸々の説明を頼むよ」
必要であったな、とマナさんの要求に頷いて再び僕と視線を交えた。
やはり貴族といったところだろうか、気迫から違う。
「かつてこの王国を統べた王は、王国貴族達の悪事に悩まされていた、貴族出身の身としては恥ずかしい限りなのだが」
「その頃はまだダビデ殿の実家は貴族ではなかったのだろう?」
「血筋の話ではない、貴族としての責務の話をしているのだ………話が逸れたな、その困り果てた王の前に現れたのが我がヘブライ侯爵家初代当主だ」
「はあ」
ただヘブライ侯爵家の成り立ちの話を聞かされているだけな気がする。
本当にこの話で僕の中にある謎が解けるのか不安に思った。
ダビデ様は淡々と続けた。
「初代当主は王国各地で“悪魔憑き”と罵られた荒くれ者72人を率いて、王国内部の腫瘍を切除した、最初こそ国王は“悪魔憑き”に恐れたが彼らの大きな功績、そして彼らが忠誠を誓う初代当主を信頼して、初代当主を新興貴族とし、悪魔憑きが所属するギルドの運営を命じ、表では裁けない王国の毒を切除する陰の騎士団、ギルドを設立した」
「そのギルドって………」
「他でもない我らデモンズユナイテッド、またの名を“王宮義賊団ソロモン”、我々が王の懐刀と呼ばれる所以だ」
到底騎士とは呼べるような集団ではなかったから騎士団にはしてもらえなかったがな、と愚痴を溢すダビデ様。
王宮義賊団ソロモン、王国内部に巣食う凶悪な腫瘍を切除し人知れず平和を保つ王の懐刀。
私腹を肥やす悪党から全てを奪い、王国民の幸福のために奪い取った全てを捧ぐ正義の悪魔達。
デモンズユナイテッドが王の懐刀と呼ばれ、強豪派閥にも関わらずギルドマスターを除いて72人しか団員がいない理由、その二つの謎が消えた。
そしてマナさんの言っていた僕の才能、その正体が僕がかつての団員たちと同じように心に悪魔を宿していたこと、そのことだと理解できた。
だがそれでも疑問はまだ残っていた。
「では、その誉ある悪魔が何故僕に宿ったのでしょうか」
「運としか言いようがない、前の宿主が命を落とした後は一定の条件を満たした波長の合う者に悪魔は移動する、其方にその資格があったまでだ」
「その条件とは?」
「絶望の底まで落ちたことがあるか、そしてそこから這い上がってきたか、それが条件さ」
「何故君はいつもいいところを持っていくんだ、少しは遠慮を覚えてくれないか」
ダビデ様が僕が質問した条件に答えたのは隣で控えていたマナさんだ。
きっとこれが日常のワンシーンなんだろう。
自身の上司でもあるギルドマスターに対してこんなにも軽く接する探求者なんて聞いたことがない、それも貴族であるダビデ様に対してだ。
「もったいぶって最後まで言わないダビデ殿が悪いだろう?ほら緊張で威圧感がダダ漏れだぞ?ギルドマスター殿?」
「にゃんでぼくのほっぺたいじるんですか」
マナさんは僕の頬を引っ張ったりして弄りながらダビデ様を煽っている。
本当にこの人は自由だ、美人で確かな実力がなかったら即刻追放だろう。
ニヤニヤしながらダビデ様を煽るマナさんもそうだが、ため息をついてマナさんに呆れるダビデ様にもなんだか親近感が湧いた。
「キミは故郷と家族を失って絶望の底まで落ちた、でもそこから這い上がってきて今ここにいる、違うかい?」
「そうですね、なんもないところから我武者羅に頑張ってきましたから」
「一体何を目指して来たのか聞いても?」
マナさんは今度は僕の方を見てニヤニヤして聞いてきた、ダビデ様の次は僕のことを弄るつもりだ。
言ってしまえばこの人のいるデモンズユナイテッドを目指して来たのだが、それを声に出せば確実に弄られる。
というかこの人はいつまで僕の頬を捏ねているつもりだろうか。
「ダビデ様、僕この人苦手です」
「気が合うな、私もだ」
「辛辣すぎやしないかい?」
やはりダビデ様とは気が合うかもしれない、特にマナさん関連のことでは。
マナさんがむすっと頬を膨らませて反論するが、それすら様になっているのが最早憎しみを通り越してなんの感情も湧いてこなかった。
こほん、とダビデ様が逸れた話の軌道修正をした。
「ともかく、我々は君の先日の活躍やマナから聞いた強烈な正義感、そして何よりフォルネウスを操ることを考慮し、君を仲間に迎え入れたい」
それは僕が望んでいた事だった。
先日マナさんに啖呵を切ったことでもう2度と叶うことはないと思っていた僕の生きる理由、活力の源。
5年前のあの日から僕に生きる理由をくれたマナさんと同じ舞台に立てる事を、僕は許されていた。
ダビデ様が僕にすっと右手を伸ばしてくる。
「シェイル・フォールン、ギルドマスターとして其方を現在空白となっている第30席に任命する、引き受けてくれるか?」
僕の返事はは決まっていた。
「勿論さ!」
「だからなんでマナさんが言うんですか締まらない」
「全くだ」
この自由すぎる美人は誰にも制御することはできなかった。
苦笑するダビデ様の手を握り返して意志を示す。
「よろしくお願いします」と、新たな決意を胸に刻んで。
「これからの目標は?」
ダビデ様の手を離し、マナさんの言葉に少し考えることにした。
今まで目指していたマナさんと同じギルドに所属するという目標は達成できたわけだ、すると新たな目標が必要になってくるのは当然だ。
自分はまだ新人だ、まずはこの強豪派閥にて最弱と言っても等しい、周りの足を引っ張らないようにしなければならない。
「まずは足手纏いにならないことと」
「ことと?」
「………貴女をギャフンと言わせたいですね」
「上等じゃないか」
もうしばらくはこの人の背中を追いかけることになりそうだ。
マナさんはふふと笑い、それに釣られてダビデ様も笑顔になる。
肩にふわりと何かがかけられる、マナさんが僕の前に一歩でる。
その後ろ姿は普段の彼女と違い、ギルドのエンブレムが大きく刺繍されたあのマントがない。
どうやら僕にかけられたこれは彼女のマントのようだ。
デモンズユナイテッドの、王宮義賊団ソロモンのエンブレムを背負わせてくれたというのは僕にとってとても大きな意味を持っていた。
マナさんが振り向き、両手を広げてハグを待つかのような姿勢で、妖艶な笑みを浮かべて歓迎の言葉を紡いだ。
「デモンズユナイテッドへようこそ」
笑い返して、肩のマントをぎゅっと握る。
僕の心臓がドクンと大きく跳ね、同時に僕の中にいるフォルネウスも雄叫びをあげた気がした。
兄さん、どうかこの復讐の旅路を進み続け、楽しむ事を許して欲しい、でなければこんな出会いはきっとなかったから。
そしてどうか見守っていて欲しい、この人の背中を追いかける道の行く末を。
そして最後に、どうか祈ってて欲しい。
この愉快で、それでいて恐ろしい義賊の珍道中が栄光に包まれる時が来るのを。
予想だにしなかった僕の第2の人生、僕の義賊生活が幕を開けた瞬間だった。
__________
読んでいただきありがとうございます!
これにて序章:ギルド入団篇は終わりです!
次回より不死龍の罪篇が始まります、誠心誠意書きますので呼んでいただけると嬉しいです!
よろしければブックマークや高評価もお願いします!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます