第10話:絶体絶命は終わらない

“恐れているものを受け入れて矛先を定めるんだ、そうすればそれはキミに応えてくれる”


パッと頭の中に浮かんできたのはマナさんの予言の続きだ。


「受け入れて矛先を定める………」


咄嗟にもっと速度を上げて走り出した、全力で地面を蹴ってようやく出せる速度だ。

破壊衝動の矛先を相見える敵から変更する。


「ようやく出てきたか!」


炎の弾幕の狙いが僕に定まる。

剣を逆手に持ち床に突き立てる、先が見えなくなる程度ではなく剣身の半分ほどが見えなくなるほどガッツリと突き立てる。


「はあッッ!!」


剣の持ち手を離さないように握り潰すんじゃないかというほどの力で握り、敵の周りを大きな円を描くように走る。

剣がつっかえて走りずらいものの、なんとか炎の弾幕を振り切る。

何度か貫かれそうになるものの、全力で、“床に破壊衝動を向けて”蹴って走る今なら致命傷にはなり得なかった。

服が焦げたり床で燃える火に突っ込んだりするが速度で熱さすら振り切る。


「お前さん一体何を企んでやがるッ!」


「そろそろ部屋の空気を変えたほうがいいと思ってなッッ!!」


床に描かれた円は、炎に妨害され続けたせいで歪でぐちゃぐちゃな汚い円だった。

剣を引き抜くことすらせずに、足を振り上げて全身全霊を持って円の内側に踵から振り下ろした。

この年上髭面魔術師に対するメラメラと燃える対抗心と、部屋に篭る凶悪な炎よりもこの身を燃やし続ける強い破壊衝動がうまく足に乗ってくれた。


「なっっ!?なんだっ!?」


描いた円が受けた衝撃の影響を受けてグラグラと揺れて、やがて下の階まで真っ逆さまに落下していった。


「つっっっっ………!脚がッッ………!」


下の階に急に落下したため、敵は上手く受け身が取れずに両脚を強打したようだ。

強烈な痛みを受けた影響もあったのか空中に無数に浮かんでいた魔法陣はパッと消え去り、放たれる炎の弾幕はぴたりと止んだ。

苦戦していた敵に吠え面をかかせたこと、そして久方ぶりに破壊衝動を何かにぶつけることができて少しすっきりとした。


「はぁ…はぁ…見たか…クソ野郎……!!」


息を切らしながら、上階から下階にぽっかりと空いた穴から敵に罵倒を浴びせる。

肺が焼けるように痛い、煙を吸い込みすぎたかもしれない。

霞む視界の中で魔術師がほくそ笑む、経歴がそれなりにあるだけにやけに冷静だ。

その顔がどうも憎らしくて、また破壊衝動が沸々と煮えてくる。


「お前さんやるじゃねえか………でも詰めが甘いぜぇ………?」


「なんだと?」


懐からポーションを取り出して痛みを和らげながら憎らしい髭面は言葉を続けた。


「もうこの屋敷は焼けてなくなるだろうなぁ」


「それがどうした」


「ここが焼け落ちたら、地下牢にいるあいつらはどうなると思う?」


「っ!?貴様!!」


気づいた。

もう火があちこちに燃え移っている商会の屋敷が焼けてしまえば、きっと地下牢への入り口は瓦礫で塞がれて、発見されるまでに中にいる人達は餓死してしまうだろう。

そうなってしまっては本末転倒だ、僕は誰1人救うことができず終わり、商会は奴隷商売の痕跡が消えて逃げ切ることができる。


ポーションで傷が癒えたのだろう魔術師は何とか立ち上がって外の方へと向かっていく。

僕も地下牢の入り口を探すために開けた大穴から1階へと飛び降りる。


「せいぜい頑張れよ、死なない程度にな」


一瞬立ち止まり、憎たらしい笑みでこちらを煽ってくるそいつを殴りたくて仕方なかった。

だがあいつを追いかけている場合ではないのだ、迫り来る火の手を避けつつ地下牢で今も助けを待つ人々を救出しなければならないのだ。

『豪炎の矢』を辺りに撒き散らしていた時にはすでにあいつはこうなることを予測していた。

その時にはすでに詰んでいたのだ、怒りに身を任せて判断を間違えていた、最初からあの魔術師の手のひらの上で転がされていたというわけだ。





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