第8話:逢魔が時②

踏み入って最初に感じたことを率直に言ってしまえば、“悪趣味”だと思った。

まるで貴族の屋敷かと見間違えるほどの豪勢加減、いい物といい物の足し算しかしておらず、物の良さが引き出されていない。

商人なのに物の良さを台無しにできるのを見る限り、会長は現在“隷属の首輪”の魅力にご執心なされているのがよくわかった。


中央の大階段を最上階まで登り、1番奥の1番豪華な扉を遠目に見つけた。

予想通り、門番はその扉を目掛けて歩いていく、やはりそこが会長の部屋のようだ。


門番が3度ノックして中にいるであろう会長に客人を通していいか問いかけている。

許可が出たのか、門番は扉の前からそっと退いた。

念の為ノックをしてから扉を開く。


「失礼する」


失礼のないよう敬語を使うつもりだったが、体がそれを拒絶した。


「これはこれは、デモンズユナイテッドの新入りさんでよろしかったでしょうか?」


「まだ試験中だけどな」


出迎えたのは小太りした中年の人物、商会の会長だ。

整えられた部屋のソファから腰を上げてニコニコとした顔をしている。


「どうぞお座り下さい」


促された通り、ソファに腰掛けた後に一つだけ気になることを問いかけることにした。


「彼は?見たところ魔術師のようだが」


僕は部屋の隅に立っているローブの似合う髭面の男性の方を見て質問した。


「彼は我が商会お抱えの魔術師ですよ、腕が立ちましてね、炎魔術が一級品なんですよ」


「やめてくださいよ会長、腕が立つつっても中堅ギルドでちょっと名を上げたぐらいしかできねえんですから」


笑って会長に返事をしているが、中堅ギルドで名を上げられるほどの炎魔術が使えるなら一級品と言って差し支えないだろう。

厄介な相手を同席させてくれたものだ。


「しかし炎魔術となると、室内では使いずらいのでは?」


炎魔法は使用すると微量の毒を発生させる。

野外で使う分には毒が空気中に拡散して人に影響がないぐらい薄くなるから問題ない。

しかし屋内では話は別だ、毒が拡散しきらず濃くなってしまう、過去に迷宮にて炎魔法を使用しすぎて死亡してしまった事故があったこともあり、室内で炎魔法を使うのはあまり好ましくない。


それにも関わらずお抱えの魔術師が炎魔法使い、何か別の利点があるのは確実だ。


「彼には護衛ともうひとつ仕事を与えていましてね、そちらの方に炎魔法が役立つのですよ」


「それは一体どんな仕事なんだ?」


なんとなく予想はついている、その予想を確信に至らせるために僕は問いかけた。

会長はニヤリと笑った、邪悪な笑みだった。


「少々特殊な商売をしておりまして………お聞きしたいですか?」


「ああ」


「そうですね、その商品を買って頂けるなら…?」


性根の腐った男だ、嘘でも買うだなんて言いたくないが、仕方ない。


「買わせてもらおうか」


「お買い上げありがとうございます」


顔を歪ませながら承諾の意を伝えると会長も魔術師もより邪悪な笑みを浮かべた。

言質をとったことで僕を引き込む事ができたと考えているのだろう。

強豪派閥であるデモンズユナイテッドに入団することがほぼ内定している僕を引き込めば、より黒い商売を隠すことができる。

彼らにとって僕は絶好のカモだったのだ。


「それで、その商品というのは?」


「あまり直接的な言葉は使いたくないのですが………“奴隷”というやつですよ」


「………それに、炎魔法とどう関係が?」


答えたのは会長ではなく魔術師の方だった。


「室内で炎魔法を使うと部屋に毒が充満するだろう?毒を死なない程度に充満させると………な?」


何が言いたいのかは理解できた。

つまりこいつは、わざと室内で炎魔法を使用して捕らえた奴隷を毒で苦しめることで従順になるようにしているのだ。

その加減ができるのは一定の技量のある魔術師、だからこの魔術師を雇っている。


「貴方も言うことをなんでも聞く奴隷がいれば色々捗りますよ?今なら“白銀の戦乙女”に似た商品をご用意させますよ?」


はははと、笑いながら放たれる言葉は、僕の逆鱗に触れた。


「僕にマナさんの代わりに抱けと?」


「貴方も、彼女と行動していれば溜まるものもあるでしょう?」


もう沸点なんてとうに超えていた。

この男達が罪なき人々を苦しめ、貶めていること、それだけで衝動を抑え込むのに必死だと言うのに、僕の命の恩人をそんな安く見られていた上に汚い目で見られていただなんて、堪忍袋の緒が切れる音がした。





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