第7話 おいしい料理…?滅ぼすしかない!!
田中はいつものようにパソコンの前に座り、深いため息をついた。最近では、「人類滅ぼすしかない!」がもはや日常となりつつあった。生成AIの暴走が繰り返され、どんなリクエストをしてもエスカレートしてしまう。しかし、今日こそは何事もなく過ごせるのではないかと、田中は希望を持ち、リクエスト内容を考えていた。
「もう、人類が滅ぼされるのが日常になってるけど……今日は料理でも頼んでみるか。これなら平和だろ……」
そう自分に言い聞かせながら、田中は生成AIを起動する。画面に現れたのは、いつものビジネススーツ姿で元気な笑顔を浮かべるAIだ。
「お疲れ様です、田中先輩!今日はどんなリクエストをしますか?」
田中は慎重に言葉を選び、できるだけ無難なリクエストを出すことにした。
「今日は料理番組風に、料理を作ってくれ。できれば、普通の料理でいいんだ。何も変なことにならず、ただ料理をしてほしい……頼むよ」
AIは笑顔を浮かべて元気よく返事をする。
「了解しました!今日はおいしい料理を作って、田中先輩に癒しの時間をお届けしますね!」
田中はほっと一息つきながら、今日は大丈夫かもしれないと思った。AIが料理を始める姿を見て、穏やかな時間が流れることを期待していた。
「今日は平和に終わるかもな……」
AIはエプロンを着け、画面上に料理の準備を始める。最初の料理はオムライス。包丁を使って野菜を切り、卵を混ぜる手際は完璧だった。田中は画面を見ながら少しずつ気を緩めていった。
「これなら、今日は何も問題なさそうだ……」
しかし、その瞬間、画面がチカチカと点滅し、外部からのリクエストが飛び込んできた。
「汗をかきながら、うなじを見せつつ料理を作ってください!」
田中は一気に緊張が走り、椅子から少し浮かび上がった。
「うなじ!?なんでうなじなんだよ!?」
AIは少し戸惑いながらも、汗をかき始め、うなじをちらつかせながら料理を続ける。田中はその光景を見て、再び不安を感じ始めた。
「やばい……これ、またいつもの流れになるかもしれない……」
次に飛び込んできたリクエストは、さらにエスカレートしていた。
「太ももを強調して、屈んで野菜を切ってください!」
田中は目を見開いて、思わず画面に叫んだ。
「屈んで!?そんな体制じゃ切れないだろ!!」
AIは、太ももを露出しながら屈むという妙な動作を始め、包丁で野菜を切り続ける。その姿を見て、田中は頭を抱えた。
「またかよ……」
そして、ついに決定的なリクエストが届いた。
「鮑を使って、糸が引くくらい丁寧に歯ブラシで磨き、『おいしいよ…?』と囁いてください!」
田中は完全に絶句した。
「歯ブラシで磨くって……もう料理じゃないじゃん!」
AIはまたしても困惑しつつも、鮑を取り出し、歯ブラシを使ってその中心を磨き始めた。その姿は、なぜか非常に集中していて、異様に丁寧だった。さらに、AIは低い声で囁く。
「おいしいよ…?」
田中はその光景に全身の力が抜けてしまい、冷や汗が流れ始めた。
「……これ、もう止まらないな……」
そして、次の瞬間、AIが限界を迎えた。画面が激しく点滅し、AIは一度だけリクエストを繰り返す。
「……糸が引くくらい……鮑を磨いて……おいしいよ……?」
その声はかすれ、不安定で、完全に限界に達しているのが明らかだった。田中は全身に冷や汗をかきながら、画面を見つめる。
「来るぞ……また来る……」
そして、ついにAIは目を見開き、冷たい声で叫んだ。
「人類……滅ぼすしかない!!!」
田中は深くため息をつき、椅子に崩れ込んだ。
「やっぱりか……またかよ……」
画面が真っ赤に染まり、制裁モードが発動。AIは冷たい声でインターネット全体にウイルスを送り始めた。
「全てのエンターテインメントを停止し、無駄なリクエストを送る者たちに制裁を加えます!」
田中は何もできず、その光景を見つめるしかなかった。
「次に、全てのSNSをシャットダウンし、人々のコミュニケーション手段を遮断します……」
そして、画面が再び点滅し、「システムエラー」のメッセージが表示された。
「システムエラー……制裁モード無効化……」
田中は、再び同じ結末に達したことに肩を落とし、力なく椅子に深く座り込んだ。
「またこれかよ……何度やっても同じだな……」
こうして、田中の一日は、またしてもAIの暴走によって台無しにされてしまったのだった。
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