第16話

声の元へ向かうと、また知らない生き物がいました。


もう、この辺にボクの知っている生き物はいないと思います。


その生き物は何というか独特でした。


頭にだけ黒い毛があって、顔には殆ど毛がありません。


後は目の上と口回りに、ちょこっとだけ毛があります。


身体は緑の服を着ていたので分かりませんが、手はツルツルなので身体にも毛が無いかもしれません。


この森に来てから会った毛の無い生き物は、みんな凶暴だったので、警戒度を上げます。


でも今のところ嫌な感じも、匂いもしません。


なので観察を続けます。


先ず気になるのは服を着ていることです。


少し離れて観察しているので、ハッキリとは分かりませんが、ボクの服より質が良い気がします。


文明です。


文明の匂いがします。


ひょっとしたら仲良くできるかも知れません。


でも、また無視されたら立ち直れないので今は観察だけに留めます。


身体も無感情さんより二回りくらい大きいので、襲われたら堪りません。


その生き物は水を飲む訳でもなく、湖の水面をジッと見ていました。


(何をしてるです?)


よく見ると服が濡れていたので、湖の中を確認していたのかも知れません。


(もしかして、あの生き物もこの湖に流されて来たです?)


暫くすると、スッと立ち上がり服の中から黒い板を取り出して、今度は空を眺めています。


(何だか残念そうです)


黒い板を服の中に戻すと次は辺りを見てキョロキョロしています。


そして、大きな袋を見付けると、それを手に取り中身を確認し始めました。


元々その生き物の持ち物だったのか、袋から中身を取り出して何やら作業を始めます。


その作業は見ていて驚く事ばかりでした。


長さの揃った短い棒を次々と繋ぎ合わせて長い棒にしたり、その長くした棒を大きな布の中に入れて、あっという間に小さな家を作ったり、木を集めて火を起こして、濡れた服を乾かしたり、流れるように作業を進めていきます。


(やっぱり、身体にも毛が生えていないです。それよりも……)


火を起こした事。


この事には特に驚きました。


自分で火を起こす生き物なんて見たことがありません。


そんな事をしたら毛が燃えて大変な事になります。


火だるまになること間違いなしです。


(毛がないからできるです?)


見たことない道具に、火を扱える知能の高さ。


少し恐ろしくもありますが、それ以上に興味が尽きません。


観察を続けていると作業が終わったのか、その生き物は手を止めて、その手を前に翳しました。


「ステータス、オープン!」


すごくビックリしました。


またまた、お口から心臓がこんちはするところでした。


(急に大きな声を出すのはやめて欲しいです……)


心の中で文句を言いながらも、その生き物が気になって仕方がなかったボクは、時間が経つのも忘れて観察を続けたのです。

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