第13話

(何です、何です、何なのです〜〜!)


ボクは森の中を一生懸命走りました。


ボクを食べるつもりなのかソイツもボクを追いかけて来ます。


身体をくねらせて、静かに地面を這って追いかけて来ます。


(気持ち悪いです〜〜!)


クネクネ、ヌメヌメです。


目が良いみたいなので、ボクは茂みに隠れながらジグザグと逃げます。


幸いボクの方が走るのが速かったので、森の中を右へ左へと逃げる内にどんどん距離が離れて、森から出る前には完全に見えなくなりました。


(何なのです、アイツは? すっごく怖かったです)


ボクは上がる息を整えて、湖の水で喉を潤しました。


口から出てきた時は気持ち悪かったですが、飲むととっても美味しいかったです。


でも、休む暇はありませんでした。


(……何です?)


何だか嫌な感じがしたボクは、辺りを確認しました。


(……!)


嫌な感じの正体に気付いたボクは思わず息を呑みます。


目です。


また複数の目がボクを見ていました。


でも、さっきのヤツではありません。


別の生き物です。


それも一体ではなく、複数体がボクを見ていました。


ボクの二倍はある身体。


濃い緑色の表皮に毛はなくて、代わりにあったのは全身を覆う小さな鱗。


細く長い手足に丸まった背中。


口と目は頭の大きさに対して不釣り合いなほど大きくて、口からは時折、長く先の割れた舌をチロチロと出し入れしていて、前向きについた目は何だか焦点が定まっていなくて、感情が読み取れませんでした。


そして、手には太い枝。


狩りで使うのか、その枝は所々赤黒く染まっていました。


見た目はすっごく怖いですが、道具を使うなら友好的な関係が築けるかもしれません。


ボクは意を決して話しかけました。


「こ……こんにちは……です」

「「「「…………」」」」


駄目でした。


言葉が通じないのか、ガン無視です。


少し傷付きました。


傷付いたし、さっきのヤツが来るかもしれないので、別の場所に移動します。


「…………」

「「「「…………」」」」


振り返ると、まだボクを見ていました。


気にせずに移動します。


「…………」

「「「「…………」」」」


また振り返ると、まだまだボクを見ていました。


気になりますが移動します。


「…………」

「「「「…………」」」」


またまた振り返ると、まだまだまだボクを見ていました。


ボクとの距離が変わっていない気がしますが、移動を続けます。


「…………」

「「「「…………」」」」


またまたまた振り返ると、まだまだまだまだボクを見ていました。


ボクとの距離が近付いている気がしますが、移動を続けます。


「…………」

「「「「…………」」」」


ボクは歩みを早めます。


でも、後ろから聞こえる足音はどんどん大きくなるばかり。


(ついて来るです〜〜!)


ボクは全力で走り、森に逃げ込んだのです。

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