第11話

ボクを見たその人は、何も言わず、じっとしていました。


今の状況を説明するには少し時間を遡らないといけません。


ボクの名前はクロネ・ココ。


大きな森の中にある小さな集落で仲間達と一緒に暮らしていました。


ボク達の住む森は、一年を通して木の実や果実が実る豊かな森で、ボク達以外にも多くの生き物達が暮らしています。


小さいヤツに大きいヤツ。


美味しいヤツに美味しくないヤツ。


ボクも仲間達も食べる事が大好き。


森で実やキノコを採ったり、獲物を捕まえたりするだけじゃなくて、自分達で食べ物を育てていたりもしてます。


大きな森だから、初めて見る実やキノコを見つける事もしばしば。


知らないモノは美味しいヤツか確認しないといけません。


知らない食べ物でも大丈夫。


ボク達は匂いを嗅げば食べられるか、食べられないか何となく解るんです。


だから、知らないモノを食べてもお腹を壊したことはありません。


食べられそうな物は何でも食べます。


いっぱい食べます。


いっぱい食べるから、いっぱい食べ物を探さないといけません。


その日もボクは森に食べ物を探しに来ていました。


(アレは……美味しくないヤツ。アレは……食べるにはまだ早そうです)


食べられる物は何でも食べますが、何でも良い訳ではありません。


美味しくないヤツは食べたくないし、まだ小さいヤツは食べません。


大きくなったり、増えたりするのを待ってから食べます。


その日は珍しく中々食べ物が見つからなかったので、ボクは仕方なく普段は行かない森の奥まで食べ物を探しに行きました。


(見つけたです)


耳が長い小型の獲物。


お肉が柔らかくて中々美味しいヤツです。


耳が良いので静かに近付かないといけません。


体勢を低くし、息を潜めて、ゆっくり、慎重に近付きます。


(もう少しです)


後、一飛びで届く距離。


爪を出し、飛びかかるタイミングを見定めます。


普段は危ないので爪は出しません。


獲物を捕まえたり、木に登ったりする時だけ出します。


出し入れできる自慢の爪です。


自慢の爪ですが、今回は出番がありませんでした。


ボクのお腹が鳴って、獲物に気付かれたからです。


お腹が鳴るのを我慢すれば気付かれませんでしたが、お腹が鳴るのは我慢できないので仕方ありません。


逃げる獲物を慌てて追います。


必死に追います。


追いかけて、追いかけて、見失いました。


残念です。


必死になって追いかけていたので、自分がどっちから来たか分からなくなってしまいました。


こんな時は高い場所から知ってるモノを探すのが一番です。


なので辺りを見渡せる場所がないか探します。


あっち、こっち探します。


すると、水の流れる音が聞こえて来ました。


音のする方へ行くと森の切れ目、崖に出ました。


崖の下を覗くと川が流れています。


中々の高さです。


でも、ここから先へは行けないので来た道を戻ろうとしました。


でも、気付きました。


崖際の木に見た事のない果実があるのに気付きました。


今後こそ、自慢の爪の出番です。


爪を出し、木を登り、枝を渡ります。


細い枝でしたがボクは身軽なので大丈夫……ではありませんでした。


赤い果実を手に採るのと同時に枝が折れて、ボクは崖の下に真っ逆様。


運良く川に落ちて怪我はしませんでしたが、ボクは泳げないので、そのまま川に流されてしまったのです。

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