第4話

気が付くとすっかり夜になっていた。


辺りを照らす満天の星。


星の光は強く、夜と思えない程、明るい。


夜空には二つの月。


その月と星々が泉の水面に映り、空と大地の境界を曖昧にして、まるで宇宙のような空間が広がっている。


その中を蛍のように点滅しながら漂う淡い光。


様々な光が織りなす幻想的な風景。


それを自身で挽いた珈琲を飲みながら眺め、一息つく。


時計がない為、正確な時間は分からないが休まず検証を続けて疲れた身体に珈琲が染み渡る。


検証に次ぐ検証。


時間が経つのも忘れ、検証を行った。


思いつく限りの検証を行った。


その結果


(なんの成果も‼︎ 得られませんでした‼︎)


悲しいかな、彼には。


並野 仁には異世界系の物語には定番の魔法や特殊能力といった不思議な力が宿っている訳でも、万能な道具を授かっている訳でもなかった。


勿論、まだ検証していない事はある。


しかし、それは力の発動条件が使用者の死だったり、特定の行動を規定数くり返す必要があったりと今すぐ検証する事が難しい。


特に前者は駄目だった場合を考えると、とてもじゃないが試す気にはならない。


故に彼の現状は


(ただの遭難なんだよなぁ……)


帰ろうにも帰還方法も定かではない。


問題は今後の身の振り方だが


(まぁ、先に進むしかないか)


この場所に残っても現状の打破は見込めない。


ならば、打開策を求めて森を抜けるべきだ。


現状は分からない事だらけ。


兎に角、この世界の事を知る必要がある。


(先ずは人里を探そう。その為には……)


必要な物を頭の中で整理しながら異世界初の夜は更けて行くのだった。

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