第7話 新世代《デジタライズクラフトホルダー》
足蹴にされて地表へ叩きつけられた。
起き上がろうとするも四肢が震えて硬直する。
失血が多すぎた、正直眠い。気力で踏ん張っているものの、しんどい。
ポリゴォンがその隙を逃すわけもなく、畳み掛けてきた。
胸を踏みつけられ、クラフトをえぐり取られそうになるが、奴は眉を顰める。
流血の指先に膨れて飛沫した。
「うげぇきったね、……擬似クラフトは、変身時肉体と一体化しているというのはどうやら本当らしい」
「ごァっ!!?」
「今のお前はクラフトそのものと言っても過言ではない、ならばクラフトへ傷をつけて変身能力を奪えば、いい加減どうかな?」
ナンバープレイスのクラフトは小さな板状であり、握り潰す程度の大きさなのはその通りだ。
奴は躊躇なく掌握していたが、突如クラフトが光り、彼の腕は焼け爛れる。
「いぎゃああああああああああああ!!!??」
「……目の付け所は悪くなかったかもだが、残念だったね」
手で直接触れるのでなく、工具ですり潰すとかならまだしも。だからってこちらの弱点について、事細かにひけらかしてやってもしょうがないのだ。
のっそりと起き上がったナンバーは、たじろいだ彼へ向けて再度接近し殴りかかるのだが――、
「!」
突如側面から、想いもよらない攻撃が飛んできた。
それは確かにポリゴォンを捉えた射線だが、結果的に彼を攻撃しようとした俺の腕へ被弾している。
(今のやつは――ポリゴォンと俺を、わざと引き離したか?)
「誰だ!」
現れた新顔がふたり。帝国幹部らも知らない様子で呆然としている。
「いやぁ、あまりにもあなたのお姿が無様みっともなかったんでね。戦いの手本を見せてあげますよ、ナンバーとやら」
「よせよスパイダー、あのお方は八人もの敵やおびただしい数の帝国戦闘員をここまで単独で捌いていたのだぜ。
いくら時代遅れの擬似クラフトホルダーとはいえ――後は我々がお相手しよう」
(時代遅れ――てことは、あの二人は新型の擬似クラフトホルダー?)
「貴様ら!
おいナンバー、あいつらはなんなんだ、貴様のお仲間だろう!?」
「いや知らん顔だわ……」
(『デジタライズクラフト』、黄金碑郷はいよいよあれを完成させていたのか)
新世代の擬似クラフト『デジタライズクラフト・ソルリティアシリーズ』は、文字通りソリティアのゲームの種類から名を宛てがわれるという。だが仔細や変身者についてまでは、ナンバーも知らされていなかった。
「クロンダイク、そろそろ行きますか」「おう」
ナンバーへわざと被弾させたのはスパイダーのほうだ。
復帰したセィルロイドとキャンセルラーが、蹲るポリゴォンの前へ出る。
「下がれポリゴォン!
その腕での経戦は不可能だ!」「シュコー!」
「クソが――覚えていろ、ナンバー貴様は俺の手で必ずッ」
そう言いながらやつは撤退するも、クラフト以外の全身を数字の異形へと変換したナンバーは、その場に立ち尽くすだけで精一杯だ。
「スパイダー、クロンダイク!
先にモノリスを!」
「奴らを倒さなくてはそれどころでは」「つまらないやつ」
クロンダイクとスパイダー、それぞれナンバーに指示されることが愉快ではないらしい。
「クラフトホルダーの第一義は戦うことじゃない、市民の保護と解放だ!
俺より戦えると言うなら、ひとりで二人を押しとどめるくらいしてみせろ!
動けるもう一人でモノリスのほうをやれ!」
「偉そうに――!スパイダー、こっちは俺でやる、お前は!」
「仕方ないな」
八人を相手取った男が上から目線で言ってのけるのだから、二人とも気に食わないのは自然なことだ。
だがクラフトホルダーの原則、黄金碑郷の市民保護は事実如何なる場合においても、ホルダーの生命より優先される。……少なくとも、黄金碑郷と直属の契約を結んだナンバーはそうだったのだ。
後輩となる彼らが同様の職務制約を受けないはずがない。
しかし彼らの動きに気づいた二幹部らも、指をくわえているわけにいかなかったなら、
「キャンセルラー、モノリスの方を追え!
ナンバーの実力のほどもわからないやつに、わしらが負けてやることはないのだ!」
「シュコー!」
「逃がすか――ンだと!?」
キャンセルラーはスパイダーが放った粘糸の球らをあっさり掻い潜り、モノリスへ向かうクロンダイクへ飛びかかる。
そこへ別方向からの追撃がふたつ。
「「「「!?」」」」
クロンダイクとキャンセルラーはぶつかった技たちの風圧で弾かれてしまった。
「――、ルービックっ」
仲間たちを退避させた彼女は、あっさりと戦線へ復帰する。
「モノリスは壊させない!」「あれに市民を閉じ込める連中に、どうしてきみが加担する!」
「それは……もう私たちの、帝国の邪魔はやめてよナンバー!
『ルービックリスタル』!」「『アルター』!」
ナンバーは余力もないので技の名前を省略して発動するも、ルービックのほうのクリスタルが先んじてモノリスをエフェクトの内側へ捉え、それを擬似クラフトホルダーたちの手の届かない高所へ飛ばしてしまう。
飛ばされたあとのモノリスは、自動的に転移してその場から消失する。
「セィルロイドさん、キャンセルラーさん!
モノリスは無事です、撤退して!」
キャンセルラーはすぐ撤収に移るも、セィルロイドとスパイダーの戦闘は膠着していた。
「『スパイダーソリッド』!」
カード状のエフェクト板が顕現し、セィルロイドの周囲を回転しだす。
「ふンぬッ!」「な――」
技の発動がセィルロイドの放つ覇気にキャンセルされた。
「スパイダーくん下がれ!」
スパイダーの周辺へ火の粉が散らされ、爆破される。
咄嗟にナンバーは概念数字を彼へと飛ばして庇うが、すべてのダメージを吸収しきれない。
「余計なことをするな数独野郎!」
お前の喧嘩腰なぞいちいち買ってやらん――助けられておいて逆ギレ、なんてことはオカルティック・パビリオン五人組と行動していた頃もよくあったので今更だ。
その間、帝国勢は既に撤退している。
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