第8話 数独の責任
戦闘後、瓦礫の陰にいた少年が、すすり泣きながら出てくる。
満身創痍のナンバーは駆けつけるも、その手を振り払われた。
「あんたが弱いから、父ちゃんはあの板に吸われたんだ!
パビリオンの姉ちゃんたちが帝国に行っちまったのも、ぜんぶあんたのせいだッ!」
「!」
少年が走り去る、ナンバーは立ち尽くすほかできない。
*
スパイダーのほうは先程から一言も口を聞かない。
見るからに実力へ精神が伴わない、年下の少年だ。
かたやクロンダイクはというと、プロフィール上の年齢はナンバーやルービックとさほど変わらないはずだが、どことなく老け込んだ印象を覚える。
三賢人の間へ呼び出され、彼らが来ると膝をついてお辞儀。
……本当ならここにいる全員、合わす顔がない。
「五人組どもがいた頃、あのモノリスが黄金碑郷で発動することは一度たりとてなかった」
三賢人がひとり、ゴルドが口を開く。
「ナンバー、きみは市民の保護を優先したが、結局モノリスへ吸収される犠牲者と怪我人を看過した」
「――」
「申し開きはあるかね?」
隣後ろで下卑た笑みを浮かべ、笑い声を押し殺しているスパイダー。
クロンダイクも同様に吹き出している。ならお前ら立場変われ――とも言うわけにいかず。
「ございません。すべて我々の力不足です」
「そうさな、裏切り者の五人組と帝国幹部三人を、単身捌き続けていたとも聞いている。
だがな、ナンバー……それでは足らんのだよ」
「!」
「市民に犠牲が出た。きみも奴らには恨みがあるはずだ――私情を持つなとは云わん。
元から有志とはいえ、黄金碑郷の防衛からあれらが無責任に離れたことは、きみの負担を多大に膨らませただろう。かつては心を通わせた同志だったやもしれない。
なればこそ五人組への情は殺し、帝国への憎悪をこそ燃やせ。
きみは理性を信じ、己の為すべき正義を遂行しろ。
滅ぼすのだ、市民を脅かすものたち総てを」
「は」
迷いの云々は関係ない、ここではすぐに頭を下げなくてはならない。
誰もそれ以外の対応をこの場で求めていないのだから。
「それとナンバー、後ろのふたりは今日から君直属の部下となる。
よろしくやってくれ」
「!」
「クラフトホルダーの活動には優越権を与えている。
なおふたりはきみの部下であるが、きみは二人の行動を制約してはならない」
「……どういうことでしょうか?」
「必要なのは現場判断で自立して動ける兵士だ。
今回のようにきみが動けなくなったとき、ろくに指示を飛ばせるとは限らないのだし、クラフトホルダーや帝国幹部相手の多々あるイレギュラーには、戦略より少数精鋭でも戦術単位で適宜対処したほうが得策でさえある」
「指示を聞かない部下など聞いたことがありません」
「無論彼らの行動と連携の責任は君が持つのだ、きみの判断は彼らに適用されないが、教育くらいできるだろう?」
「――」
(このクソジジイっ――!)
ゴルドのやつが俺を嫌いなのは知っていたが、新人の不始末の責任だけ俺におっ被せるつもり満々とは恐れ入る。
「恐れながら申し上げます。
部下の行動に干渉できず、事後的に責任を追わされるなど、はっきり言って非常識ですよ」
「そもそも五人組からして神秘の力を扱う非常識で猥雑な輩だった。
あれに対抗するには、きみの下らん常識など必要ない」
ダメだ、言葉は通じるのに会話は通じないというやつの典型だ。
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