第6話 帝国の三幹部たち

 背後から二人の異形が殴りかかる。

 ナンバーは飛び退いた。


「流石、一筋縄とはいきませんな。紛い物のクラフトホルダーが、最後の悪足掻きを」「シュコー」

「セィルロイド、キャンセルラー!?」


 セィルロイドと呼ばれた壮健なジジイは、彼女へ進言している。


「お下がりくださいませ姫君、すでにほかの四人は変身ドレスを破られた」

「――、邪魔をしないで」


 ルービックは帝国幹部の二人に挟まれ、敬意まで払われておりながら、どことなく居心地の悪そうに見受けた。帝国の幹部の見分け方はおもに、共通する黒く有機的な体表へ走る、ストライプラインの色となる。

 ポリゴォンが水色、セィルロイドが赤みがかったオレンジ、キャンセルラーは灰色。


「彼女らの撤退を援護する間、あなたの力が要となります」

「ナンバーは、私が倒す!」

「その手間を減らすのです、あなたがたの為すべきをお忘れですか」


 話している二人のところへ行きたいナンバーだが、前身をキャンセルラーに阻まれる。


「お前たちの為すべきとはいったいなんだよ!?」

「――シュコー」「キャンセルラー、お前はそういうやつだったな!」


 一度だって人語を語ることはなかったのが、冷徹なる黒き戦士、キャンセルラーというやつだ。

 何かしら意思はあるようだが、これまで結局、ダー〇ベイダーよろしくに歪な呼吸音を喉から鳴らすだけ。

 何らかの理由で発声機構を喪っているというのが、黄金碑郷の三賢人らや解析班の見立てであった。

 かたや話せるセィルロイドはというと、まだルービックを説得している。


「あのような男にかかりきりで、お仲間を失われても?」

「――、わかった、あなたらの言う通りだよ」


 彼女は素直に折れて退いた。


「待て、ルービックっ!お前は本当に心までそんな奴らに――」

「行かせぬ!」


 セィルロイドは火の粉を散らして、戦列へ加わる。

 ナンバーの周辺に舞った粉が視界を埋めて爆散し、彼は立っていることしかできない。


「世界に概念数字がある限り、あの男が斃れることはない――先程のチャトランの攻撃を受けてなお、まだ立っているのか!」「シュコー」

「厄介なやつ、パズルの異端者めが……!」


 火の粉が収まったところへ、肉体の欠損を埋めながら数字の塊が彼らを逆襲する。


「どわっ」「シュオ!?」


 二人はあっさり圧倒されてしまった。

 ナンバーは周囲を見渡す。

(戦士たちは全員いない――)


「逃げ遅れてた……人たちは?」


(結局全員、あのモノリスへ吸い込まれた)


 満身創痍で裂けてほつれた戦闘服まで修復がおぼつかない。

 だが――あのモノリスさえ壊せば、吸われた人々は解放される!

 五人と共闘していた頃は、毎度のようにさっさと破壊していたが、


「させるか!」

「ポリゴォン、邪魔をするなッ!」

「本当にチャトランの言った通りになったな」「あいつが?」

「貴様さえ消耗させれば、最早我々のモノリスキャプチャー事業に障害はない!」


 モノリスキャプチャー、文字どおり帝国がモノリスへ人を吸収する作業を呼んでいる。


「くそ!」


 概念数字による肉体修復が追いつかず、奴へ叩きつける拳に力が入らない!

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