第36話 男女で多目的トイレに……
――――【秀一目線】
(雄司たちがお風呂に入る前のこと)
雄司と陽香ちゃんが仲良く手を繋いで家に入ってゆく。ボクと律香が心配するまでもなく親密度を高めていってくれてるみたいだ。
ボクと律香の計画を進めるためにも二人にはもっと仲良くなってもらわないとね。
離れて家の様子を窺っていると買い物帰りの母さんと遭遇した。
「秀一、んなとこで何してんだよ?」
「ちょうど良かった。母さんに話があってね」
「ちょ、ちょっ、なんだってんだ、んな急に!」
ボクは小さな子どもがおもちゃを買ってもらいたがっているかのように母さんの手を引き、カフェへと案内していた。
そこには律香が待っていて……。
「雛森律香と申します」
母さんに深々と頭を下げ挨拶をしていた。
「お、秀一の彼女かぁ? あたしに、んな丁寧な挨拶はいらねえって。あたしは真理亜ってんだ、よろしくな律香ちゃん」
律香に向かって、母さんは手を差し出すと二人は握手を交わしている。真面目な律香とヤンママの母さんだと反りが合わないかと思ったが、コミュ力お化けの母さんにはどうやら関係なさそうだ。
「かーっ! こんなかわいい彼女を連れてくんなんて秀一も隅に置けねえな」
ベンティサイズのアイスコーヒーを一気飲みした母さんはボクの肩を叩いて、嬉しそうにしていた。母さんがそう思うのも無理もない。世間的に見れば雛森律香という女の子は眉目秀麗、才色兼備、文武両道と非の打ち所のない人物である。
だけど彼女の悩みはボクだけしか知らない。理解できるのもボクだけだろう……。
中学は男子校だったから、彼女がいなくたって何の問題もなかった。
律香はボクの女避けとして申し分ない子だ。そして律香は律香でボクを男避けとして使っている。
お互いの利害が一致したのだ。
「いんや~、秀一ってばモテんのに彼女の一つも作らねえから、マジ心配してたんだよ。ああ、律香ちゃん、不束もんだけど秀一をよろしく頼むよ。こいつがなんかやらかしたら、すぐにあたしに言ってくれ」
「ありがとうございます、秀一くんのお母さん」
「真理亜でいいよ」
「はい、真理亜さん」
母さんはすっかり律香のことを本当の彼女と思ってくれたらしい。ちょっと喧嘩っ早いけど、母さんは心がピュア過ぎるんだけどね。
和やかなムードでボクの偽カノの紹介が進んだ。
あとは雄司と陽香ちゃんが頑張ってくれればいい。せっかくボクたちが母さんを足留めしたんだから……。
――――【雄司目線】
雛森と一緒にお風呂に入った熱も冷めやらぬ、翌日のことだった。日課のように兄貴たちのストーキングをしていると、偶然にも雛森と一緒に入った多目的トイレに兄貴と律香先輩が連れ立って入ってゆく。
律香先輩と兄貴の顔は紅潮していて、いつもの清い交際とは違うただならぬ雰囲気だった。
「………………」
俺と雛森は二人が多目的トイレに入ってゆく場面を目撃してしまい、無言になる。趣味が悪いと思いつつも、どうしても気になり俺たちはステンレスみたいなスライドドアに耳を当てていた。
『うっ、うっううーーーっ、す、スゴい……』
『大丈夫? 律香……』
『こ、これくらいなら平気……だから……』
スゴいと思ったのは俺の方だよ!
セックスって、あの清楚な律香先輩が野獣のような唸り声を上げてしまうほど、スゴいものだなんて思ってもみなかった。
雛森は口に手を当て、顔を赤くしていた。そりゃショックだろう……。
俺もそうだから。
あの男を寄せ付けないような清らかなオーラを放っていた律香先輩と兄貴がヤってると知って、俺は全身の力がふっと抜ける。
「雄司くん!」
「あ、雛森……ごめん」
雛森を抱えたりする場面が多かったけど、今日ばかりは俺が雛森に支えられてしまう番だった。
雛森に支えられながら公園のベンチへと場所を移した。
「馬鹿だよな……なんか兄貴から律香先輩を本気で取り戻せるとか考えてたなんてさ……。俺みたいなキモ陰キャに律香先輩が振り向いてくれる訳なかったんだよ」
「そんなことありません! 雄司くんは秀一さんに負けないくらい格好いい男の子です。私が保障します、といってもお姉ちゃんに比べれば大したことない私ですけど……」
「雄司くんにお願いがあります。私のれんしゅうに付き合ってもらえませんか?」
雛森は俺の手を取ると彼女の手と重ねてしまう。
俺は雛森を自宅の部屋に案内していた……。
―――――――――あとがき――――――――――
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