第33話 一緒にお風呂1
「ごめんなさい、私のおトイレになんかに付き合わせてしまって……」
放尿をし終え、多目的トイレから出ると雛森は俺に深々と頭を下げていた。男の子に最も聴かれたくないであろうおしっこ中の音を聴かれたというのに申し訳ない気持ちでいっぱいの雛森に、俺はいたたまれなくなる。
どんなに口が滑っても雛森のおっしっこの音が聴けて良かったなんて言えない。
「間に合って良かった。でも謝るのは俺の方だ。雛森は女の子なのに俺が一緒に入ってしまって……ごめん」
なんだかどちらが悪い訳でもないのに、二人でぺこぺこ謝っていると、おかしくなってきて……。
「ごめんなさい、笑っちゃいけないのになんだかおかしくて」
「俺もだよ」
雛森が肩を震わせていたので、俺も笑うのを我慢できなく二人で笑っていた。
――――ママぁ、あれイチャイチャしてるの?
――――しっ! 黙ってなさい。
――――ママとパパみたい。
三才くらいの子どもだろうか、手を繋いで笑っている俺たちを見て指を差していた。幼子の母親は恥ずかしくなったのか、幼子を抱っこしてそそくさと公園を後にしてしまう。
残された俺たちは……。
「イチャイチャしてるように見えるのかな?」
「イチャイチャしたことなくて、分かりません……」
「俺もだ……」
雛森がモテないとか、男の子と付き合ったことないとか未だに信じられないんだが、少なくとも雛森の初々しい反応を見ると信憑性は高まる。
もしかして、それほど兄貴に一途に想いを寄せていたなら、俺は雛森の想いが兄貴に通じるよう精いっぱい努力しようと思う。
――――滝川家。
「母さ~ん」
玄関ドアを開け、帰ってきたことをアピールするも家の中は俺の声だけが反響して、返事がない。
しばらくお湯に漬けておけば、皮膚が柔らかくなって接着剤が浮いてきて取れる。そう思い、雛森にわざわざ俺の家にまで来てもらったんだけど、母さんは買い物か何かで出掛けていて、家にいなかった。
お互いに片手で靴を脱ごうとするが、なかなかどうして難しい。結局玄関の上がり
「お風呂場で手を漬けるから靴下もついでに脱いでおこうか」
「うん」
雛森は足をくねくねさせながら、靴下の裾に指を入れて脱いだ。彼女の手には脱ぎ立てほやほやの靴下が吊されている。
美少女雛森の靴下……。
雛森からはいつもいい香りが漂ってくる。芳香剤のようにキツい香りではなく、仄かに鼻腔をくすぐるフルーツが熟したような自然な香り。
も、もしかしたら雛森の生足や靴下もいい香りがするんじゃ……。
思わず、ごくりと息を呑んでしまう。
「ゆ、雄司くん……そんなにまじまじ見られるとは、恥ずかしいです……」
「ご、ごめん……」
給湯器のスイッチを入れ、温度をマックスにした。洗面器では浅く、バケツに火傷しない程度にお湯を張り、じっと二人で動かず手を漬けたまま。
なんだかずっと漬けたままだと暇になってくる。
「くしゅんっ」
雛森がくしゃみをした。小さな子どもがするようなくしゃみで、なんだかとってもかわいらしい。
「冷える?」
「ええ、ちょっと身体が冷えちゃいました」
「じゃあ、浴室暖房を入れ……雛森?」
俺が立ち上がろうとすると繋がれた手がバケツに引き戻されてしまう。
「お風呂に入りたいです」
「は? この状態で?」
「はい」
どうしたんだろう?
あまり自己主張しない雛森がいつになく積極的で正直戸惑う。
ああ、そういうことか!
俺と雛森が一緒にお風呂に入っていると兄貴が帰ってきて、雛森は兄貴に訴える。『雄司くんに無理やりお風呂に入れられたんです』と。すると兄貴は雛森のことをかわいそうに思い、兄貴と雛森の親密度が高まるという作戦か!
兄貴を自分の姉である律香先輩から寝取ろうなんて提案してくるくらいだから、やっぱりこう見えて雛森は意外と策士なんだと思った。
いいね!
恋愛は雛森くらい積極的にならないと成就しないんだろう。
なんだか成り行きで俺と雛森は一緒にお風呂に入ることになった。その方が接着剤も取れやすいと思うし……。
―――――――――あとがき――――――――――
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