第31話 結ばれる二人
放課後、俺たちは美術部の子が作ってくれた図面を基にグレーのプラスチック段ボールをひたすら切り出していた。
「ちっくしょー、何枚あるんだよ!」
ハサミやカッターを使い、指定された形に切り出すという誰にでも簡単にできるお仕事に迫田がハサミを床に投げつけながら憤慨していた。
「あんたらヲタがやりたいって言ったんじゃん。最後まで吐いた唾は飲み込めよ」
ギャルのリーダー相原が迫田に凄んでいが……。
「相原、ちょっと話がある」
「なんだよ、告ってきても無駄だかんな」
「ちげーわ!」
「耳貸せ」
「貸してやってもいいが、五万」
「オレのことじゃねーよ! しかもやたら高い」
迫田は相原を手招きして、耳元でなにか話しているようだった。
仲がいいのかわるいのか……よく分からん。
雛森は瞬間接着剤の入った小さな容器を押して、切り出したプラ段にぽとりぽとりと液状の接着剤を落としていた。数ミリの違いのあるプラ段を接着させながら重ねていって胸像を作っている。
やっと胸元に差し掛かろうという段階で、作業的にはまだ半分以上残っていた。展示は明日。作業できるのは今日しか残されていないので急ピッチで進めていたのに、迫田たちはとんでもないことを言い出した。
「雄司、オレら用事あるからあと頼むわ」
「え? いやちょっとまだ全部終わってねえって」
「二人でやればなんとかなるだろ。そもそも実行委員は二人なんだからよ」
「じゃ頼んだよー、お二人さん」
「陽香、ごめんねー。あたしらも用事があって外せないんだよー。あとで埋め合わせするから」
「うん。気にしないで行ってきて」
雛森は鞄を持ち上げ、楽しそうに話しながら教室を出てゆく相原たちギャルたちに明るく笑顔で手を振っていた。
こんな仕打ちを受けてるっていうのに笑顔でいれるとか雛森はどんだけ天使さまなんだよ。
「くっそー! あいつら俺たちに丸投げして帰りやがった」
「もしかしたら私たちに気を遣って、帰ってくれたのかもしれない……」
「え?」
まったく俺にその視点はなかった。そもそもあいつらが俺たちに気を遣う玉かよ?
「あいつら手伝ってんのか、邪魔してんのか分からなかったし、いない方が作業が捗るかもな」
「うん」
雛森になんか受けたのか彼女はお嬢さまらしく口に手を当て、クスクスと笑う。何気ない雛森の仕草にはドキッとさせられることが沢山あったが、中でも上品に笑う姿は律香先輩を想起させ、俺の心の中を抉ってくる。
雛森に向かって律香先輩と呼び掛けてしまいそうになったのは一度や二度じゃなかった。
このままでは雛森を律香先輩の代わりとして、変な気を起こしかねないと思い、少し距離を置こうとした。
「俺が切り出しをやるから、雛森は接着を頼むよ」
「うん、分かった」
しばらく二人で分担しながら、ノルン団長の仕上げに掛かっていたんだけど、おかしなことが起こっていた。
あれ?
作業を始めたときには雛森との間に凡そだけど五メートルほどの距離があったと思ったんだけど、気のせいか三メートルくらいに縮まってない?
教室に二人きりになるなんて始めてだから、緊張して距離が迫ってるって感じちゃうのかな?
俺がただ自意識過剰なんだろうと一笑に付して、プラ段の切り出しを継続していると、背中に何か触れたような気がした。
物を置き忘れた記憶はなかったが壊してもいけないと思い、振り返る。
「雛森!?」
さっきまで離れていた雛森が俺と背中合わせで傍にいて、びっくりした。俺の目を盗み、接近してくるなんて……雛森はだるまさんが転んだをやらせるとチート級に強いのかもしれない。
いやそういうことじゃなくて。
雛森と目が合うと彼女は俺と目を合わせたり、外したりしながら恥ずかしそうに答える。
「やっぱり近い方が作業効率が上がるかなって思って。ダメかな?」
「あ、いや……一応刃物使ってるから離れておいた方がいいかなって」
「うーっ」
ほとんど不満を漏らしたことない雛森が唸る。
もしかして拗ねてる?
「じゃあ、カッターを使うときだけ離れて、傍で作業する?」
俺が訊ねると雛森は無言だったがヘドバンのように激しく首を縦に振る。
なんだか、もふもふみたいな反応でかわいい。
いよいよ作業も大詰め、頭部の作成に差し掛かっていたときだった。単調な作業が続き、俺が欠伸していると雛森が大声を上げた。
「ひゃああぁぁん! 手、手にぃぃ!」
どうやら手に瞬間接着剤がついてしまったようで右往左往しており、ウェスで拭こうと手を伸ばしていた。
「雛森、それで拭いちゃいけな……あ……」
「あ……」
慌てて雛森を止めよう手を出すと、俺と雛森の手がくっついてしまっていた。
いやこれ……簡単に取れないだろ……。
俺と雛森は手を繋いだような状態で結ばれてしまっていた。
―――――――――あとがき――――――――――
10万字まで残り2万文字程度、年末年始も休まず最後まで書ききりたいと思います。
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