第30話 どんどん好きになっていく
――――【陽香目線】
雄司くんと屋上から見つめていたときでした。
「秀一さん……」
私はもうあなたに助けられたことより、雄司くんと過ごす日々の方が……。最近はお姉ちゃんたちのストーキングよりも雄司くんのことが気になって、お姉ちゃんを見つめる雄司くんの横顔をずっと眺めています。
私の中で雄司くんが秀一さんとの出来事を押し流してゆく……。
今じゃ秀一さんのことよりも雄司くんが私といないとき、何をしているのかが気になって仕方なくなってきています。
雄司くんの本当の彼女でもないのに彼が女の子と話しているところを見てしまうともやもやが芽生えてきて、心が苦しくなります。
私だけを見て、私だけと話して、私とだけ一緒に……。
私はただの偽カノ……。
そんなの無理に決まっているのに。
雄司くんがお姉ちゃんや千曲さんのように美しかったり、かわいかったりすると気が気でなくて、思わず雄司くんの傍に寄って彼の袖やブレザーの裾を摘まんでしまうこともしばしば。
これじゃデパートに来て、欲しい物があるからと親の気を引こうとしている幼子と変わりありません。
雄司くんに私の今の気持ちを素直に伝えることができたなら、これまでお姉ちゃんと比較され続けてきた辛さを忘れることができるかもしれません。
だけど……。
私が雄司くんに秀一さんをお姉ちゃんから寝取りたいなんて、言い出してしまったんです。今更雄司くんのことが好きだって伝えようものなら、いくら優しい雄司くんでもきっと私のことを卑しい女だと軽蔑するはず……。
雄司くん……。
秋山先生は私の想いに気づいたのかまでは分かりません。ですが偶然であるにしろ、展示物実行委員で雄司くんと少しでも一緒にいられる口実ができてうれしかったのです。
――――翌日。
HRで多数決でノルン団長に決まったと発表したときでした。
「えーっ! ちょっと陽香、そんなヲタの言うことなんてやってらんないって」
「はあ!? 多数決で決まったもんだろ、素直に諦めメロン」
「その言い方がムカつくんだよ、ヲタぁぁ!」
クラスのみんなが私の伝えたことで口論を始めてしまったのです。私はおろおろするばかりで、どうすればいいのか分からず、心はすでに雄司くんに縋っていたのです。
私の心が雄司くんに向いたとき、彼は決して言葉を荒げてはいませんでしたが、よく通る声で淡々とみんなに語り掛けてゆきます。
「あのさ、言い争うのは自由なんだけど、みんなは秋山先生が俺たちを実行委員に指名したとき、誰も反対しなかったよね? それって、俺と雛森の方針に従うという委任状を渡したことと同じ意味があると思うんだけど、どうかな? もしここで多数決の決定に反対するって言うなら、俺と雛森は実行委員を降りる。反対した人が自分の納得の行くように実行委員をやって事を進めてもらいたんだが」
「分かったよ、やりゃいいんだろ、やりゃ……」
「ここで辞められても困るし……」
雄司くんの説得により、みんなは納得したようで情けない私をしっかりとフォローしてくれた彼。
HRが終わり小休止に入った途端、私は無性に雄司くんにお礼がしたくて堪らなくなり、普段の私ならとてもできそうにない行動に出ていました。
「雄司くん、さっきはありがとう」
「ん? 俺はただ俺たちに任せっきりにして、文句を……えっ?」
廊下へ出た雄司くんを袖を掴んで引き止め、私の今の想いを態度で示しました。そのままでは届かなかったので背伸びして、ほっぺたにキスを……。
引き締まったほっぺたなのに暖かく柔らかい感触。私と一緒に過ごしてくれる雄司くんそのものでした。
「お、お礼ですっ」
でも途中で恥ずかしくなって、彼から逃げるように廊下を走り出していたのです。
誰にも雄司くんを渡したくなくて、彼にマーキングを……。
な、なんであんなことを……。
―――――――――あとがき――――――――――
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