第29話 いつでも辞めていいんだぞ

 二人して秋山先生のご指名で展示会実行委員に選ばれてしまったあとの昼休み。俺たちは毎度のことながら、律香先輩と兄貴の動向を探っていた。


「俺たちって、周りから見たら本当に付き合っているように見えるのかな?」

「みんなの反応を見るとそうみたいだよね」


 雛森は目で兄貴の姿を追いながら、嬉々として語る。本当なら想い人の弟である俺と付き合っているなんて信じられたら、迷惑だと思うのに……。


 雛森が極端な自己肯定感のなさから超絶美少女であるにも拘らず、モテない、かわいくないなど自分を卑下する言葉を吐こうものなら、謙遜を通り越して嫌味だ。


 だが彼女が女子たちから嫌われていないのは気遣いができ、自然と身についた人当たりの良さのなせる技なんだろう。


 ただ俺たちの関係が周囲に広まれば広まるほど、別れたときに変な噂を立ててしまいかねない。早めに行動に移さなければ……。


「秀一さん……」


 じっと兄貴たちを見つめていた雛森は、子猫が親猫とはぐれ不安と寂しさから鳴いたような声を上げていた。


 俺も雛森に釣られ、兄貴の口にお弁当のおかずを運ぶ律香先輩を見つめていた。



――――翌日。


「決戦投票の結果、ノルン団長になりました」


 雛森はHRにて多数決の結果をみんなに伝える。


「えーっ! ちょっと陽香、そんなヲタの言うことなんてやってらんないって」

「はあ!? 多数決で決まったもんだろ、素直に諦めメロン」

「その言い方がムカつくんだよ、ヲタぁぁ!」


 雛森は女子たちの不満の声を浴びてしまっただけでなく、女子と男子の諍いに巻き込まれてようとしていた。


 雛森は律香先輩とは違い、正論ドリルで人の心臓を抉るようなことはできずにいる。それが雛森の良いところでもあり、優しいところでもある。


 詰められてふるふると震える雛森を見てしまうと、もう抑えられなかった。雛森を庇うように前にでると不平不満を漏らしたクラスメートに言い放つ。


「あのさ、言い争うのは自由なんだけど、みんなは秋山先生が俺たちを実行委員に指名したとき、誰も反対しなかったよね?」


 半ば押し付けられたものだが、やると決めたからにはやり通す。雛森と軽くラインでやり取りして、そんなことを彼女に伝えていた。


 俺の言葉を聞いたクラスメートが息を詰まらせ、反論できないでいる間に矢継ぎ早に二の句を吐き出す。


「それって、俺と雛森の方針に従うという委任状を渡したことと同じ意味があると思うんだけど、どうかな?」


 相手に訊ねることで思考のリソースを割かせ、常に俺のターンで話すんだ。


「もしここで多数決の決定に反対するって言うなら、俺と雛森は実行委員を降りる。反対した人が自分の納得の行くように実行委員をやって事を進めてもらいたんだが」


「分かったよ、やりゃいいんだろ、やりゃ……」

「ここで辞められても困るし……」


 ざわざわとざわつくも、それぞれ顔を見合わせたクラスメートの意思はほぼ決まり掛けているようだった。


 俺たちのやり取りを腕組みしながら椅子に座り、沈黙していた秋山先生が立ち上がり答えた。


「私が二人に頼んだ理由が分かっただろ。つまらないことに時間を割くより、さっさと展示物をどう作るか決めた方が時間を有効に使える」


 紆余曲折を経て俺たちは、鈍器を振るい笑顔でゴブリンの脳天をかち割りそうな女騎士団長の胸像を作ることになった。


 HRが終わり、小休止に入ったときだった。


 手に汗が滲んでいたので手を洗いに行こうと廊下に出たときに袖を掴まれた。


「雄司くん、さっきはありがとう」

「ん? 俺はただ俺たちに任せっきりにして、文句を……えっ?」


 言い終える前に雛森は辺りをキョロキョロと確認し終えると踵を上げて、俺の頬に口づけしていた。


「お、お礼ですっ」 


 そう一言だけ言って、廊下を走って去ってしまう。


 えっと、これはどう受け取っていいんだろう。雛森にキスされた場所を避け、頬に指を置いて考え込んでしまった。


―――――――――あとがき――――――――――

んほー! ラピ、いいっすな。これは引くしかありません。廃課金王! 石の貯蔵は充分か?

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