第28話 壊れた天使さま
カップルコンテストの翌週、俺と雛森は律香先輩と兄貴の後をつけながら、登校していた。兄貴たちからは悟られることのないよう充分な距離を保って……。
俺たちをスカウトしてきた佐藤さんだったけど、あのあと俺たちが逃げてしまったことで、兄貴たちをスカウトすると思っていたんだけど、兄貴曰わくスカウトされなかったらしい。
「危なかったです……私みたいな冴えない女の子がアイドルにスカウトされるとか有り得ないです。スカウトに来た人はきっと悪い人で、私を口ではとても言えないようなところへ売り飛ばそうとしてたに違いありません……」
雛森は険のある口調で佐藤さんを非難しており、言い切ったあとでブワッと赤面してしまっている。
口ではとても言えないこと……一体雛森はどんな想像をしたんだろうか?
「俺は佐藤さんがどう思ったのか、本心は分からない。けどこれだけははっきり言える」
別にもったいないぶろうとした訳じゃないが言いにくいことなので、結果的に雛森からは溜めたように思えたのだろう。彼女のつぶらな瞳が俺を見つめていた。
こんなことを言うのは顔から火が出るくらい恥ずかしい。だけど、自己肯定感が地の底より低い雛森にはもっと自信を持ってもらいたくて、恥ずかしさに堪えながら口にしてしまう。
「誰がなんと言おうと雛森はかわいい」
言ったそばから身体の中が熱くなってきて、恥ずかしさのあまり思わず雛森から顔を背けてしまった。
突然雛森が変な声を出すので顔を上げて、彼女を見る。
「わわわわわわわわわわわわ……ワタシがかわかわかわ……イーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
「雛森っ!?」
なにかコンピュータウィルスに感染してしまい、完全にバグってしまっているようだった。
俺はてっきり雛森がいつものようにそんなことないと否定するんじゃないかと予想してたんだが、反応がまったく違ったことに驚きを隠せない。
「雄司くんにかわいいって言われた。雄司くんがかわいいって言ってくれた」
バグが解消されたかと思うと、雛森は独り言を繰り返して手をパタパタさせており、放っておくと背中から羽根が生えて、本当に天使さまになるんじゃないかと思えてくる。
――――くうー、陽香ちゃんかわええ!
――――朝からイチャつきやがって!
――――滝川雄司は死すべし!
い゛っ!?
気づくと俺たちの周りに登校中の生徒が足を止めて集まり、注目を浴びていた。
決してイチャつこうなど思った訳じゃないのに!
「雛森、行こう」
「え? あ? 雄司……くん?」
見るとすでに兄貴たちの姿はなく、まだ夢見心地の雛森の手を引き、俺は先を急いだ。
俺に言われて、雛森は舞い上がったんだ。もし兄貴にかわいいと言ってもらえたなら雛森はどんな顔をするんだろうか?
それだけが気になった。
――――1年3組の教室。
「あー、今日から菱高名物クラス別の展示会の準備を始める。そこでみんなにはうちのクラスの展示物を決めてもらいたい」
秋山先生がHRにて展示会についての概要を説明すると、クラスメートたちが口々に展示したい物を口にしていた。
――――やっぱ一分の一スケールの団長でしょ。
――――はあ? 船長の方がいいだろがよぉ!
――――男子って馬鹿なの? 国広よ!
男女問わず、それぞれ好きな推しキャラを挙げていたのだが……このままではみんな推しへの愛に溢れていて、とても纏まりがつきそうにない。
「んじゃまあ、委員を決めておいた方がいいよな。誰かやりたい子はいるか?」
シーン。
秋山先生が訊ねると、さっきまで喧騒に溢れ返っていた教室がピタリと静寂に包まれた。
「仕方ねーな。委員はペアでやる仕事だし、一番仲の良さそうな滝川と雛森、二人でやってくれ」
「「えっ!?」」
俺たちは秋山先生の突然の提案に顔を見合わせた。俺も戸惑っていたし、雛森も戸惑いの色が眉や口元に表れている。
だが俺たちの困惑とは裏腹に……。
「ちくせう! 雄司、俺はお前が羨ましい!」
迫田が悔しがって、いる中でクラスメートは俺と雛森に拍手を送ってきていた。
これって、実質クラス公認の仲になってしまったんじゃ……。
クラスメートに外堀を埋められて、今更偽装カップルで俺は律香先輩を、雛森は兄貴を寝取るために共闘しただけ、なんて言ったら、どうなるんだろう?
とにかく俺は不安になった。
―――――――――あとがき――――――――――
くっ、レッドフードの可動フィギュアだと!?
そ、そんな物で作者が落ちると思っていたら大間違いなんだぞ! ポチッ。ゆ、指が勝手にぃぃぃ……。
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