第26話 優勝したけど……なんで!?
兄貴は賑やかしのために出るだけさ、と爽やかに語っていたがぶっちぎりの優勝候補が良く言うよ、と思ってしまう。
ただ兄貴本人はまったく悪気がない。
昔からそうだが兄貴はそういう人なんだ。
それに比べ俺は僻みやすく、落ち込みやすい……。俺が兄貴と比較され暗澹たる気持ちになっていると司会者がフリップを持ち、俺たちと観客に審査内容を伝えてきた。
「まず最初のお題は……相性度チェックぅぅ!! 晴れて彼氏彼女となった皆さまですが! お互いのことをどれくらい理解しているでしょうか? では彼女さんから彼氏さんの好きになった理由を当ててもらいましょう!」
ハイレグ水着にハイヒール、うさ耳のカチューシャといういかにもな格好をしたお姉さんが雛森たち女の子にフリップとマジックを渡していく。
渡された雛森たちはペンを片手にフリップへ答えを書き込んでいた。中にはなかなか答えを書けない人もいたが……。
「よろしいでしょうか? では競泳水着を着たあなた! お名前は?」
「雛森律香です」
「雛森律香ちゃん! いいお名前だ。じゃあ律香ちゃんの彼氏さん、自己紹介を」
「律香さんとお付き合いしてます滝川秀一です。よろしくお願いします」
「爽やかイケメンな彼氏さんですねー。美男美女カップルだ。じゃあイケメンの彼氏さんに答えてもらいましょう!」
「足かな?」
兄貴が答えると律香先輩が裏返していたフリップを掲げる。
「正解は……惜しい! 手でした」
俺と雛森は顔を見合わせた。すると彼女は噛み合ってるのか噛み合ってないのか分からないね、みたいにくすりと笑っていた。
「じゃあ、次のカップルです。あれれ? さっきのカップルと良く似て、これまた美男美女カップルだねー! お名前訊かせてくれる?」
「ひ、ひにゃもりひゃ、ひゃるかれすっ」
マイクを向けられた雛森は緊張のあまり彼女の名前を盛大に噛んでしまう。滑稽というより雛森のかわいさが爆発していた。
くすくすと笑っている人たちもいたが……。
――――ひにゃもりちゃん、かわええーー!!!
――――最高じゃん!
――――オレと付き合おう!
男性客から大きな喝采が巻き起こる。
「さっきの律香ちゃんとは姉妹かなにか?」
「ひゃ、ひゃい」
「そんなに緊張しなくて……あ、じゃあ彼氏さんの隣がいいね」
「ひゃ?」
司会者はお姉さんを手招きすると、お姉さんが雛森の手を引き俺の傍まで連れてくる。
「どうかな、落ち着いた?」
「は、はい……」
「さすが彼氏さんだね。ところでクイズの答えは大丈夫かなー?」
「はい、腕かと」
「どうかな、どうかなー?」
司会者が雛森を見ると彼女はおずおずとフリップを掲げて口元を隠す。
「正解っ! 腕だー!」
雛森のフリップを見た司会者がマイクに向かって叫んでいた。初めて出た正解に観客たちからどっと歓声が湧いている。
え? 適当に書いただけなのに当たった?
「こちらのカップルに10ポイント!」
結局相性度チェックでは俺たちしかポイントを獲得できなかったみたいで、偶然にも俺たちが兄貴たちを含めた他のカップルを突き放してしまう。
「えー、次の審査はお姫さまだっこ競争です。簡単なルールを説明しますと、プール内で彼女を抱えたまま25メートルを泳ぎきり、ゴールするというものです。途中で抱えたお姫さまを落とせば失格です」
司会者が指を指したのはただのプールではなく……。
プールって……普通のプールじゃなくて、波のプールじゃん!
確かに波のない普通のプールなら誰もが完走ならぬ完泳できそうだけど、荒波が来る環境だとそう易々とゴールするのは困難だ。
プールに二人で浸かると雛森は俺の首に腕を掛ける。
ふにっと柔らかな感触がした。
え? これって雛森と素肌同士で密着することになるんじゃね? とか思っていると……。
ひ、雛森のおっぱいが俺の胸元に当たっとる!
俺が雛森のマシュマロのような感触に言葉を失いそうになっていると彼女は頬を赤らめながら、俺に訊ねてきた。
「雄司くん、重くない?」
「雛森は痩せているし、それに浮力もあるから重くないよ」
俺たちがうれし恥ずかしといった感じでお姫さまだっこするのに時間が掛かっていると他のカップルたちは先に進んでいた。
ただの賑やかし参加だから、焦らず気楽に行こうと思っていたんだけど、プールはそれを許してくれない。
うおっ!?
なんて荒波だ!
まったく前に進め……あれ?
前に誰もいねえ!
兄貴はどこだ?
ゴールは目前。
兄貴を含め他のカップルはもうゴールしたんだろう。さっきの相性度チェックと違って運の要素はまったくない。ビリケツになってもなんら不思議でなかった。
荒波が僅かに収まったかと思われたたきだった。雛森が突然咳き込みだした。
「けほっ、けほっ!」
「雛森!? 大丈夫か?」
「う、うん……み、水飲んじゃった……」
俺に気を遣い明るく振る舞っているが、水を飲んで咳き込み苦しそうな表情を目の当たりにすると、俺の中で彼女のあのときの姿がフラッシュバックしてくる。
川から引き揚げたとき、眠り姫のように穏やかな表情ではなく、顔は青ざめ身体は氷のように冷たく、俺は彼女が死んでしまうんじゃないかと思っていた。
「雛森、ちょっとだけ息を止めていて。すぐにゴールするから」
「えっ? あ、うん」
雛森は俺の意を汲み取ってくれたようで水が入らないよう手で口を覆うと水に潜る要領で息を大きく吸い込んだ。吸い込み終えると雛森は俺にしっかりと身体を寄せ固く俺に抱きついている。
ゴールには水泳の競技大会のように本格的なタッチ板が用意されており、俺はタッチ板に触れた。
タイムを見るまでもなく俺たちはぶっちぎりでビリケツなんだろうと思ったが正直俺はそんなことどうでも良かった。
一刻も早く雛森をプールから上げるため、本来はプールサイドから退場するところを彼女を肩車してタッチ板のある飛び込み台のそばから出てもらう。
「ごめん……配慮が足りなくて……。こんなことなら途中で棄権しておくべきだった……」
「ううん、そんなことないよ。スゴいよ、雄司くん! 私たち勝ってる! 一番早かったみたい」
ううっ。
泣きそうになる。
俺の至らなさを責めるどころか、苦しいはずなのに微笑んで俺が優勝だなんて優しい嘘を言って誉めてくれるなんて……。
「第9回イズミーランド、ベストカップルコンテストは滝川雄司、雛森陽香チームの優勝です!」
は?
俺が雛森を救護室へ運ぼうとしていたら、荒波プールから他のカップルが上がってくる。その中には兄貴と律香先輩も含めれていて……。
まさか遅れていたと思ったら、一番早かったのか!? 波で周囲が見えなかったから分からなかったけど……。
―――――――――あとがき――――――――――
ついに! 年末年始はメガニケのあの子が待望のSSRになるのかっ!? 優等生っぽい立ち位置だったのにストーリーが進展していく内に面倒くさい子というレッテルを貼らるだけでなく、3人娘の中で唯一SSRが来ないという不遇っぷり……。とりあえず来たら作者は爆死前提で引きますよ!
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