第25話 カップルコンテスト

 イルカの肌ような生地の競泳水着を着用した律香先輩は素晴らしい。雛森姉妹は二人ともがプロポーションも完璧だった。


 一点だけ違いがあるとしたら、律香先輩の方が雛森よりも胸元が慎ましい……。


「なんで兄貴たちがここに……」

「ちょっと頼まれちゃってね」

「柄じゃないんだけど、カップルコンテストに出る人たちが少なくて、賑やかしに出てくれないかって」


 いやもう兄貴たちが優勝だろ……。


「そうだ、雄司たちも出てよ」

「はあ!? なに言ってんだよ」

「いくら、秀一さんのお願いでも……」


 兄貴の突拍子もないお願いに俺と雛森は顔を見合わせていた。雛森の表情を見ると顔が青ざめて、まるでムリムリムリと顔に書いてあるようで言わなくても出場したくないことが分かってしまう。


「私は陽香と雄司くんに是非出て欲しいと思うの。勝つとか負けるとかじゃなく、たまには檜舞台に立ってみるのもいいことよ」


「あうう……私はお姉ちゃんみたいにかわいくないから……」


 男子の前ならいいが、雛森のことを良く知らない女子の前で彼女の発言は禁句に思えてくる。類い希な容姿を与えられているのに必要以上に卑下すると嫌みに取られかねない……。


 セラフィムのみんなは雛森の自己肯定感よわよわであることは理解してくれていたみたいだけど。


「はあ…………」


 ため息が出そうになっていたら、正面から深い深いため息が漏れていた。


「陽香、あなたはかわいいわ。私が保証する」

「お、お姉ちゃん……」


 律香先輩はしなやかな腕を伸ばすと雛森を優しく包み込んで抱き締めていた。


 ああ……。


 黒髪の律香先輩と銀髪の雛森。黒と白のコントラストが目に焼き付いて離れない。


 なんて美しい姉妹愛なんだ。


 律香先輩は優しい。


 だけど俺たちの気持ちにはまったく気づいてなさそうだった……。


 雛森の表情を見ると眉尻が下り、凄く複雑そうな苦笑いを浮かべている。律香先輩は雛森のことが目に入れても痛くないほど溺愛しているような印象を受ける。


 雛森も決して律香先輩のことを嫌っているどころか尊敬できる姉として、慕っている。


 だけど現実は残酷だ。


 大好きな姉に子どもの頃から想いを寄せていた俺の兄貴をかっ攫われたのだから……。だが兄貴は俺がずっと律香先輩を想いを寄せていたことなんて知らないだろう。


 兄貴と律香先輩の仲を応援したい気持ちと律香先輩を奪われた憎しみ……。


 俺の兄貴がクソ野郎であって欲しかった。


 それなら心置きなく兄貴をぶん殴れるのに……。



――――コンテスト会場。


 兄貴と律香先輩に誘われ、俺と雛森はカップルコンテストの舞台に上がってしまっていた。舞台下にはプールに来ていたお客さんたちが俺たちコンテスト参加者に熱い視線を送ってきていた。


 お客さんたちがカップルに投票し、ベストカップルが選ばれる仕組みになっている。


「ど、ど、どうしよう……」


 雛森は身を小さくして震えているが、俺も彼女を支えているからなんとか立てていたが本当は背を向けて亀になりたい気分だった。


「大丈夫だ……どうせ律香先輩と兄貴が優勝する。俺たちはただの数合わせ、ただ出されたお題をこなせばいい……」

「う、うん……」


 俺は兄貴みたいに格好良くないし、性格も陰気だけど、雛森は違う。


 コンテストに出場しようとするだけあり、参加しているカップルたちは美男美女揃いだが、その中でも雛森と律香先輩は抜けている。


 みんなに見られ緊張からか、生まれたての小鹿のようにぷるぷる震える雛森はなんだか愛おしくなってくる。と言ってももふもふを愛でるような感じでだけど……。


「レディースアンドジェントルメン! ただいまよりイズミーランド、カップルコンテストを開催致します。今回でカップルコンテストも記念すべき10回目! はたして記念回に優勝するカップルはどの組なのか? 参加するカップルたちに盛大な拍手を!」


 ――――パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!


 短パン水着にタキシードのジャケットを羽織ったコンテストの司会者が軽妙な口調で会場を盛り上げると俺たちに拍手の雨が降り注いでいた。


―――――――――あとがき――――――――――

今日はガンプラ以外のバンダイ製品が発売ラッシュでした。うう、お金を搾り取られるぅぅ。作者、AC詳しくないのに多脚メカのライガーテイルを買ってしまったよ。

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