第24話 水着の天使さま

――――イズミーランド。


 暖かい日もあるけど、まだまだ寒い日もある一学期の初め。温泉や温水プールのある地元のリゾートスパを訪れていた。


 そういや俺、ペアチケットを貰って何も考えずに雛森を誘ってたんだが、これって普通にデートなんじゃなかろうか?


 雛森も別に律香先輩と兄貴のストーキングしない日はわざわざ俺に都合を合わせなくてもいいのに、付き合ってくれるとか人柄そのものが天使なんだろう。


 ただ一人で雛森を待っていると、俺の前を通り過ぎてゆく親子連れにカップル、友だち同士で来てる人たちを見て、眩しく思えてくる。カップルがプールで水をかけ合って水飛沫が光に照らされ、キラキラと輝く。


 雛森が偽カノとして付き合ってくれてるお陰で薄れていたが、俺はやはり日陰者なんだ。


 現実を思い知り、深く嘆息したときだった。


「に、似合うかな?」

「あ、うん。とっても」


 俺も雛森に照れてしまい月並みな返ししかできなかったが、それでも雛森も俺の言葉に照れて顔を赤くしていた。


 ――――うわーっ。


 ――――すっげー!


 ――――あの子モデルか?


 もじもじしながら恥ずかしそうに更衣室から出できた雛森だったが、彼女を見た老若男女問わず注目を浴びてしまっていた。


 雛森は着やせするタイプなんだろうか?


 制服の上からでは到底窺うことができなかった彼女の水着姿。黄色いビキニに水玉模様が雛森と良く似合っていた。


 グラビアアイドルすら雛森を目の前にしたら、嫉妬してしまうような美しい形のメロンが二つ。雛森の控え目な性格からして、もっと地味な水着で来るかと思ったら、ビキニのトップスが雛森のボリューミーなたわわを必死で支えている。


 腰なんてしっかりとした括れがあるのに形は良いのに大きなお尻とむちむちとした柔らかそうな太股……。


 控え目に言って、俺の予想を遥かに凌ぐ叡智な身体の雛森に驚いてしまう。


「みんな、雄司くんを見てる。私なんかと違って格好いいもんね」


 雛森は俺だと勘違いしてるのっ!?


 こうなると雛森の自己肯定感の低さには呆れてしまうばかりだ……。


「雛森、向こうに行こう」

「う、うん」


 周囲の目を避けたくて雛森の手を引き、俺はとある場所を指差していた。


 ビルの五階相当の高さから一気に滑り降りるウォータースライダー!


 あそこなら一時的にしろ、人目は避けられるはず……。そう思ったまでは良かったんだが、ここのウォータースライダーは二人一組で滑るカップル仕様で雛森が俺の前に座り、俺は雛森の後ろで彼女の腰骨辺りに触れていた。


 いやこれ股間が雛森のお尻に触れてるんでふけど!


 R18とか書かれてないか探したけど、そんな表示はどこにもない。


「いきますよー!」

「いっ!?」

「はい!」


 雛森がスタッフさんに返事すると後ろから俺の背中をぐっと押した。すると雛森と俺の身体は斜めに傾き、水の噴き出ている滑り台へと躍り出てしまう。


「のわーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」


 雛森と密着したまま俺はプールへと着水したのだが水に沈んだときに雛森と離れてしまう。


「雛森!?」


 彼女が中々浮き上がってこない。


「まさかっ!?」


 俺はとんでもない失態を冒してしまった、と心臓が止まりそうになっているとゆっくりと雛森の顔が浮上してきた。


「ゆ、雄司く……ん……」


 無事に浮いてきた雛森だったがもう泣き出しそうな顔をしてしまっている。


「ご、ごめん! 溺れて大変な目に遭ったっていうのにプールになんて誘ってしまって……無神経だった」

「ううん、ち、違うの……怖くはなかったの」


 雛森は首を大きく振って、溺れたときのトラウマはないと否定していた。


「雄司くんと一緒だったから……」


 そのあとボソリと呟いていたけど、小声で拾えない。


「私のビキニが……」


 雛森の身体に目をやるとトップスが外れて、彼女は出て胸元を覆い隠している。


 水ではっきりとは見えないがそれでも雛森の胸元は俺の股間を危険にさせるほど魅力的すぎた……。


「あった!」


 水面にぷか~んと浮いていたトップスを回収する。かなり面積の大きい生地なのに雛森が着用すると最低限大事なところを隠すだけの仕事しかできなくなるのか……。


「ありがとうございます……」


 雛森は顔を真っ赤にして、ビキニを受け取ると水中で付け直していた。俺は彼女に背を向けて、他人から見えないよう壁になる。


 一旦、プールから上がりベンチに座っていると雛森が距離を詰めてきた。


「雄司くん……どうして、私が溺れたって知ってるんですか?」


「えっ!?」


 しまった……つい雛森が溺れたんじゃないかって心配で余計なことを言ってしまった。


「兄貴から聞いたんだよ、あははは」

「ではなぜ秀一さんは名乗り出て来られないのでしょう?」

「ああ、見えて兄貴はシャイなんだよ」

「そうでしょうか?」


「そうなんだって」

「ではこのあと雄司くんのお家にお邪魔しても構いませんか? 直接秀一さんに訊ねてみようと思います」


「あ、いや兄貴は律香先輩と出かけるって言ってたから」

「そのあとで訊けば良くないですか?」

「そのあとも二人で勉強するって言ってたような……」


「雄司くん!」

「あ、はい……」

「なにか私に隠してませんか? 私たちは同志なんですよ、隠し事はしない約束ですよね」


 いつになく雛森は真剣でやっぱりえっちなことをしてきた犯人探しをしているのかと思ったときだった。


「あれー? 雄司来てたの?」

「あ、兄貴!?」

「キミは確か……」

「陽香! 久しぶりね。会えてうれしいわ」

「お姉ちゃん……」


 なんで兄貴たちがここに!?


 雛森の追及を回避できたのは良かったが、俺たちが付き合ってる関係が兄貴たちに知られてしまった。偽装ってことまではバレてないと思うけど……。


―――――――――あとがき――――――――――

マジか……アルカナディアがアニメ化とか……。

確かに急にプラモメーカーであるブキヤがASMRに参戦したり、アニメ化への布石かと思われることはあったんだけど、まさか本気でアニメ化するとはね。親会社がテレ朝だから、優良なIPをどんどん活用しようと思ったのかな?

人気は出て欲しいところだけど、プラモが買えなくなるようなことにはならないで欲しい……。

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