第21話 不良パイセンに絡まれた
偽装カップルのはずなんだが、最近雛森といる時間が増えた。
球技大会の帰り際でも俺のことが心配らしくて、家の前まで送ると言って聞かなかった。
「雛森みたいなお嬢さまを一人で帰す方が心配だから……雛森は超絶美少女だって自覚しないと危ないよ」
「わ、私はそんなかわいくないです……そうやって誉めてくれるのは雄司くんが優しいから……」
照れて顔を赤くする雛森は某ぼっちギャルを見ているようで堪らなくかわいい。
「もしもし? 車で迎えに来てもらえますか? ええ、場所は学校です。その際、寄って頂きたいところがあります。ええ、はい」
雛森はスマホを取り出すと電話で誰かと話しているようだった。
駄々っ子というほどではないが俺を家まで送ると言って譲らない雛森は普段登校には使わない送迎用の車を呼んでしまう。
5分ほど経つと校門の前に黒塗りのリムジンが到着してしまう。
「さあ、雄司くん。ご遠慮なく乗ってください」
「お、お願いします」
雛森は重厚なドアを開けると俺に乗車を促す。運転手さんは俺を見るとペコリと頭を下げたので恐縮してしまう。
如何にも高そうな本革シートに広々とした後部座席、そもそも運転手付きの高級車とか俺と雛森は住む世界がまったく違うような気がしてくる。
さながらお姫さまと庶民といった感じ。
その気になればタクシー代わりにリムジンを呼べてしまうとか、この子はどんだけお嬢さまなんだよ!
ただ律香先輩も雛森も他人を見下したような、高飛車なお嬢さまぶったところはない。それ故に周りから天使さまと呼ばれているんだろう。
雛森は運転手さんに俺の家の場所を説明すると車は静かなロードノイズだけを立てて走り始めた。
「格好良かったです」
雛森はこっ恥ずかしいことをサラッと言ってきて戸惑う。そういう言葉は兄貴に掛けてやって欲しい。
「そうかな……バックネットを越えるホームランを打てなくて、大林先輩にボールをぶつけられた情けない男なんだけど」
「そんなことありません! 私はソフトボールには詳しくないですが、野球は父に連れられ何度も球場に足を運んだことがあります。プロ野球選手でもバックネットを越えるホームランなんてそうそうできないと思います」
雛森の発言にムッと来た訳じゃないが、なにか俺の兄貴を非難されたように思えてきて、反論してしまう。
「いや兄貴ならそれくらい可能だって」
「いくら秀一さんでもそれは……」
「雛森は兄貴のこと、好きじゃないの?」
「それとことは……また別のことですから」
雛森は兄貴のこと、好きなんじゃないのか? 女心は良く分からないな……。
二人で話しているといつの間にか家に到着していて、時間が経つのが早いな、と感じてしまう。
「もし身体になにかあればすぐに連絡してください。良い病院ならご紹介できると思います」
「うん、ありがとう。おかげで助かった」
「雄司くんは私の、私の大事な……お友だちなんです。どうかご自愛ください……」
運転手さんにお礼して降りようとしたら、雛森は俺の手を取り、なかなか離してくれない。それだけじゃなくどこか涙目みたいになってるように見えたんだが、気のせいか?
「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
まだ夕方なのに雛森は気が早いと思ったが、お嬢さまなので就寝も早いのかな、などと思った。車が発進しても、雛森は窓から身を乗り出して手を振っていたが、危なっかしくていけない。
あとでLINEで危ないから止めた方がいい、と伝えておこう。
――――翌日。
俺と雛森の二人で律香先輩と兄貴をストーキングしているときだった。
ベンチに座る律香先輩がベストを脱いで膝に置いた。
「今日は暖かい」
「そうだねー、暖かいから虫が活発に動いてる」
相槌を打つ兄貴が一瞬こちらを向いたかと思ったのだが、飛んできた紋白蝶に手を伸ばしていたのでどうやらストーキングがバレた訳じゃなさそう。
兄貴の手のひらに乗った紋白蝶を律香先輩が見つめていた。
念のため壁際に隠れた俺たちだったが……。
「うう、悔しいですけど……あんなに絵になるなんて」
「確かに……」
これが格差なのか、とうちひしがれていると、黒い前髪が長く片目が隠れてるいかにもな男子が俺たちに声を掛けてきた。
「おいおい、昼間から見せつけてくれんじゃねえか、ああん?」
男子のシャツの第3ボタンくらいまで閉じられてなく、ネクタイがだらしなく垂らしたいかにも不良といった感じの男子が俺たちに向かって因縁をつけてきた。
俺たちは因縁をつけてきた不良の仲間に囲まれていた。相手は5人もいる。
「ひゃっー! 興津見ろよ。誰かと思えば天使さまじゃん! ちょっとさ、俺らに付き合ってくんね?」
坊主頭の不良が雛森に手を伸ばしてきた。雛森は俺に強く抱きついて震えている。
くそっ、雛森にだけは絶対に手出しさせない!
―――――――――あとがき――――――――――
なんということでしょう! もう二週間ほどで今年も終わってしまうではないですか! 早い、早すぎる……。一応、作者の予定では年末年始も連載するつもりなんですが、お暇のあるときに読んでもらえるとうれしいです。
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