第20話 なんか俺、やっちゃいました?
――――【雄司目線】
俺の打球はセンターの遥か上空を通過しても衰えることなく遠くへ飛んでゆく。
「回れーーーー!!!」
兄貴が叫び、出塁していたチームメイト全員が本塁目掛けて猛ダッシュを始めた。スタンドがないため、ホームランがない。
俺もとにかく走った。
一塁を蹴るときにチラと見えた光景。俺の打球は遥か遠くのバックネットに当たり、ぽとりと地面へと落ちる。
「なにやってる! 早く中継に入れ!」
センターが必死に走って追いついていた。が、俺が打てるなんて思ってなかったんだろう。大林先輩のチームメイトはポカンと構えていたのだ。
大林先輩の先輩の叱咤で中継に入ったライトにボールが渡る頃には俺は二塁を蹴り、三塁へ迫っていた。
「雄司、いけるっ! 回れ、回れ!」
兄貴たちはすでにホームインしており、腕をぐるぐる回して、俺の帰りを待っていた。
「雄司くんっ!」
雛森が祈るようなポーズをしながら俺を見守ってくれている。
兄貴が雛森のそばにいるというのに、俺を気に掛けてくれるなんてな。たとえ演技だったとしても俺も最高の演技で応えないと!
とにかく全速力で走った。
もうホームは直前!
これで俺たちの勝利だ! と思ったときだった。
「雄司くん! 危ないっ!」
その声で振り向くと俺の目の前にソフトボールが迫っており、もう避けれないと覚悟する。ソフトボールと言ってもあんな固い物が頭に当たろうものならただじゃ済まない。
せっかく雛森と共同戦線を張れるようになってきたのに入院、いやもっと酷いか? 色んな想いが頭を巡っていた。
ぐあっ!
ボールが俺の身体に当たり、強い衝撃が走る。点々とグラウンドを転がるボール。不幸中の幸いか、ボールは頭には当たらなかったが肩に当っていた。当てられた右肩が痺れて、腕を振れずブラーンと垂れ下がったまま。
――――負けそうだからって卑怯なことすんな!
――――彼がかわいそう!
――――雄司くん、頑張って!!!
なにかギャラリーの人たちが叫んでいたけど、痛みで意識が朦朧としてきて、何を言っているのか分からない。
「なにやってんだ! 早くホームに投げろ!」
「もう、嫌だ! おれはこんな卑怯な真似はしたくない!」
「貸せ! オレがやるっ」
最後の中継に入っていた大林先輩を見ると、しくじったか、みたいな目で俺を見ていた。俺は右腕を左手で抱えながら、ただ必死で走る。
もうホームにボールが返ってきてアウトかと思ったら、ホームインできた。
「雄司!」
「「雄司くん」」
ホームインできた安心からか、ふらーっと意識が遠のいて、急に力が抜ける。俺の身体を受け止めてくれたのは兄貴だった。
「頑張ったね、雄司」
男でも優しく支えてくれるとか、どんだけイケメンなんだよ……。
蛍光灯の光が目に飛び込んできて眩しい。
「おー、起きたか」
目を開けると養護の花房先生が俺を見ていた。その隣には雛森の姿がある。
「いいか、落ち着いて聞けよ。雛森は滝川のことが心配でたまらなくなって、表彰式にも出ずにずっと滝川の傍を離れなかったんだぞ」
「先生っ!? それは言わない約束じゃないですか……」
「これがバラさずに居れると思うか? 独身女の前で青春真っ盛りな相思相愛を見せつけられたんだ、今度二人には私の愚痴を聞いてもらうからな」
とかいいつつ先生は俺たちに気を遣ってか、ベッドから離れて、保健室を出て行ってしまう。俺と顔を合わせた雛森は顔を真っ赤にし、慌てて先生の言葉をかき消そうとするがもうすでに遅かった。
「ありがとう、雛森。気を遣わせてしまってごめん。ホント、ボールが肩に当たっただけなのに倒れるなんて情けないね」
律香先輩がいるとはいえ、せっかく兄貴と一緒にいられる時間があったのに俺のためにフイにしてしまうなんて……。
だけど、なんか雛森の様子がおかしい。
「……そんなこと……」
「雛森?」
「そんなことないよ! 雄司くんは一生懸命頑張っただもん!」
ベッドに掛かったお布団越しに雛森が抱きついてきて、どうしたものかと俺は困ってしまった。
――――【陽香目線】
なんであんなことしちゃったんでしょう……。
雄司くんが倒れてしまったあと、彼が保健室に運ばれたと聞きつけ沢山の女の子たちが花房先生に詰め寄っていました。
「花房先生! 滝川くんの容体は大丈夫なんですか!」
「命に別状はない」
「肩を強く打ってしまったと聞いてます」
「それもあるが滝川自体もかなり疲れていたんだろう。もしかしたらまた人助けをしていたのかもな」
人……助け?
また、という言葉から雄司くんは頻繁に人助けをしているってこと? じゃ、じゃあ、まさか溺れていた私を川から助けてくれたのは秀一さんじゃなくて雄司くんってこと?
でも雄司くんは一言もそんなこと言ってません。
ただ雄司くんがたくさんの人を助けているのは間違いないようで……。
まさかあのラブレターは秀一さん宛てのものじゃなくて、雄司くんへ宛てた物だったり……。
ずっとおかしいと思ってました。「俺は兄貴みたいにモテないただの陰キャだから」が口癖なのに雄司くんの近くに来る女の子たちの瞳はキラキラと輝いていて、恋する乙女そのもの。
私が雄司くんの近くに居ると彼女たちから鋭い視線を浴びせられたり……。
はっ!? もしかして雄司くんは物凄く鈍感で彼女たちの気持ちに気づいていないんでしょうか!?
もし雄司くんが彼女たちの気持ちに気づいたら、私は完全にお払い箱なんじゃ……。
そ、そんなの……いや!
せっかくなんでも話せる男の子のお友だちができたのに。
―――――――――あとがき――――――――――
ただいまプロジェクトをちまちま進めております。なるべく休まないよう連載したいのですが遅れたら、ごめんなさい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます