第19話 ヤればデキる子
なんか雛森の元同級生たちとカラオケボックスからの帰り、雛森は俺の手を固く握ったまま離してくれなかったんだけど、なんか怖いことでもあったんだろうか?
――――翌日。
学校全体を巻き込んだイベントである球技大会を迎えていた。
男子はソフトボール、女子はバスケットボールなんだけど……。
「雄司と同じチームになれてうれしいよ」
「兄貴……」
笑顔の兄貴からポンと肩を叩かれ、俺の気持ちは複雑だった。敵チームになった兄貴をぶっ倒して、律香先輩にいいところを見せたいと思っていたのに……。
いやいや、そもそも俺が兄貴に勝てるのか?
「二人とも、がんばって」
俺が不安になっていると律香先輩が現れ、俺たち兄弟に声を掛けてくれた。
ああ、先輩の体操服姿が見られるなんて、今日はそれだけでしあわせな日になりそう。
「ゆ、雄司くん……に活躍してもらいたいな」
「そうよね、陽香のクラスメートだものね」
律香先輩は俺たちの仲を察したんだろうか、それてもソツない言葉を掛けただけなんだろうか、柔和であるものの律香先輩の瞳を観てもブレがなく掛けられた言葉の真意は測れそうになかった。
一方の雛森は兄貴が気になるのか、ちらちらそちらの様子を窺いながら俺に話していた。
「俺に遠慮せずに兄貴に声をかけてきたら? その方が兄貴もよろこぶと思うし」
「私はただ雄司くんにがんばってもらいたかったの」
雛森は慌てて俺の言葉をかき消すように話してくる。お世辞であっても菱高の天使級アイドル雛森からもらえる応援にケチをつけたら、俺は男子から責められることだろう。
「そっか、ならありがとう。天使みたいな雛森に応援されてんだ。やっぱがんばならいとな」
「うん! で、でも天使っていうのはちょっと恥ずかしい……」
ポッと頬を赤く染める初々しい雛森を見ていると俺まで照れてしまう。ホントなら彼女いない歴=年齢の俺に彼女体験をさせてくれていることだけでもありがたいと思わなきゃな。
俺が雛森にほっこりさせられていると、邪魔が入る。
「滝川! いくらオレに勝ちたいからって、弟を連れてくるなんて卑怯者がすることだ。恥を知れ!」
いきなり兄貴に食ってかかる男子が現れた。男子はただの球技大会なのに野球帽にユニフォームにスパイクという明らかにガチ勢である。
「兄貴、あれ誰?」
「ん? 彼かい? 彼は野球部の次期キャプテン大林くんだよ」
小声で兄貴に訊ねると素で答えてくれたところをみると、明らかに大林先輩が兄貴をライバル視しているのに兄貴はどこ吹く風といった感じ。
兄貴は落ち着いた雰囲気で大林先輩に告げていた。
「雄司とはたまたま同じチームになっただけだよ。異論があるなら先生に言って欲しいな」
兄貴が目配せした先には剛力先生が仁王立ちで構えており、とても異論、反論を言えそう雰囲気ではない。
「くそっ、おまえだけには女子の前でいい格好させねえからな!」
兄貴にボールを持った手を突き出しながら捨て台詞を残し、大林先輩はベンチへと戻っていった。
「ふう……律香がいるっていうのに他の女の子に格好つけるとか意味ないんだけどな……」
兄貴は俺の前でこそ、やれやれといった表情をしていたがチームメイトたちに顔を向けるとさっきまでとは打って変わって、キリリとした表情で呼び掛けていた。
「相手は野球部員が多いみたいだけど、気にせずボクたちのやり方で楽しもう!」
――――おー!
俺たちのチームメイトになったみんなは兄貴の呼び掛けに応え、声を張り上げる。
やっぱり兄貴はイケメンでカリスマ性があって、悔しいけどまともに勝負したら勝てそうな気がまったくしない。
「雄司くん、頑張ってー!!!」
弱気になりそうだった俺に雛森が声援をくれる。普段は自信なさげに話す雛森があんなに大声を張り上げて……。
これはもうお互いのために俺が兄貴より活躍するしかないな!
試合が始まると露骨だった。
――――ボール!
――――ボール!
――――ボール!
――――ボール! ボールフォア!
初回、4番バッターの兄貴が打席に立ちバットを構えるも、大林先輩は即座に兄貴を敬遠し、まったく兄貴にバットを振らせる気がないらしい。
いったいどっちが恥を知れなんだよ!
俺が大林先輩の敬遠を苦々しく思って見ていると……。
「勝ちゃいいんだよ、勝負ってもんはよぉ。それに敬遠はルール違反じゃねえし」
俺がネクストバッターサークルで苦々しく思っていたが兄貴はいつものように飄々としていた。
「怒っているのかい?」
「そういう訳じゃ……」
「大林くんの言う通り、敬遠は反則じゃない。あとは頼んだよ、雄司」
「あ、ああ」
兄貴はバットを置いて、一塁へ行ってしまった。俺が打席に立ち大林先輩と対峙すると、なにか親の仇のように俺を睨んでくる。
「いくら秀一の弟だろうが、秀一さえ押さえちまえば大したことねえ! オレの球が打てるもんなら打ってみやがれ!」
抑えたというより敬遠しただけなんじゃ?
ズトン!
――――ストライクッ!
そんなツッコミを入れようとした瞬間大林先輩の投げたボールはキャッチャーのミットに収まっていた。
ウソ……だろ?
こんな豪速球を投げるのに兄貴を恐れて敬遠するとか、兄貴はどんな強打者なんだよ。
ただの帰宅部なのに……。
気を取り直し、俺がバットを構えたときだった。チームメイトに加え、律香先輩や雛森たちの注目が俺に集まっていた。
ここで打たなきゃ、律香先輩にいいところを見せられない!
ホームラン級の一打が欲しい。
ズトン♪ ぶーん♪
ズトン♪ ぶーん♪
――――スリーアウトチェンジ!
「はっはっはー! 兄貴の秀一は凄いのに弟はまったくだな。警戒して損したぜ」
俺は大林先輩に嘲笑されたことなんかより、律香先輩を含めた人たちの落胆した表情が心に刺さってしまった。
――――ブーッ!
――――卑怯者!
――――野球部の癖にプライドねーのかよ!
「うるせえ! 勝ちゃいいんだよ、勝ちゃよぉ!」
球技大会用の特別ルールで4回までに短縮されていたんだけど、あれよあれよと進んで最終回を迎え、大林先輩は結局兄貴をすべて敬遠し、ギャラリーから罵声を浴びていた。
勝ちゃいいと言いつつ、2アウト満塁になるとか舐めプし過ぎてないか?
大林先輩は女の子にモテたいのかもしれないが、勝つことより勝負を逃げた方がダサいんじゃないかと思ってしまったんだが……。
――――滝川く~ん、頑張ってー!
俺の打席だったんだけど、兄貴が声援を浴びていた……。
兄弟間格差を感じていると、口の前に手を運びメガホンのようにして叫んでる女の子がいた。
「雄司く~ん! 雄司くんならきっと打てるよ!」
「なっ!? なんで、てめえみたいな冴えねえ奴に陽香ちゃんが応援してるんだよぉ!!!」
「雄司くんは冴えなくなんかないです!」
「は、陽香ちゃん……そりゃないだろぉぉ」
大林先輩は雛森のファンだったんだろうか?
雛森に反論されて、へなへなとマウンドに膝をついてしまうほどショックを受けている。
「くそったれ! 陽香ちゃんの前で大恥かかせてやるから覚悟しておけよ!」
悲しみが怒りに変わり、大林先輩は立ち上がるとモーションに入り豪速球を投げつけてくる。
――――ストライクッ!
ボールはミットに収まるが不思議と俺に焦りはなかった。
――――ストライクツー!
あと一球で終わる。追い込まれたとき、雛森と律香先輩を見て思った。
ああそうか。
俺は兄貴と同じように活躍しなきゃって思ってた。
そうじゃなかった。
俺と兄貴とじゃ、まったく違う。
ただ俺の出来ることをすればいい。
バットを振って、ボールに当てる。
グリップエンドから離して短く持つ。
そして大きく振るんじゃなくて、コンパクトに素早く振る。
それだけだ。
――――カキーンッ!!!
俺のバットは大林先輩のストレートを芯で捉え、センターの遥か上空を飛んでいった。
―――――――――あとがき――――――――――
作者、ガンベまで走り並んでRGアカツキを手に入れてきました。初めてガンベに並んだんですが、いやはや凄かったですね。なんか700とも1000とも並んだ人がいたそうな。入場順抽選券を配布しただけあり、巷で騒がれているような騒乱はなく平和でした。
作者はアカツキが欲しいというより再販品のMGの方が置いてて欲しかったんですが、残念ながらそちらはなくアカツキをお迎えすることになりました。
購入したものの、カクヨムコンが終わるまで積むことになりそう……。
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