第18話 天使さまの嫉妬

――――【陽香目線】


 驚いているとばったり杏奈ちゃんと目が合ってしまって……。私に気づいた杏奈ちゃんが陽気に声を掛けてきました。


「おっ、陽香もお花摘みかぁ?」

「う、うん……」

「だったら一緒に行こっか」

「ええ?」

「まだしてねえから」


 私と並んだ杏奈ちゃんは私の肩を抱き、そのまま女子トイレへと誘ったのです。


「俺は先に戻ってる」

「あ、うん」

「じゃあなー」


 雄司くんに訊きたいことがあったのに、訊ねられずに彼は行ってしまいました……。


 お手洗いに入るなり杏奈ちゃんは化粧台の鏡の前に立ち、私に告げました。


「陽香……心配になって見にきたんだろ?」

「そ、そんなことは……」

「あたしと陽香の仲だろ、隠すな隠すなって」

「う、うん……」


 杏奈ちゃんが雄司くんに胸元を押し付けたとき、詠美ちゃん、琴美ちゃんが雄司くんを誘って歌っていたとき……私の心は平静を保てず、ざわざわと波立っていたんです。


 それを杏奈ちゃんはちゃんと感じ取っていて……、3年間ずっと一緒に過ごした彼女に隠すことは出来ませんでした。


「陽香には済まねえがあいつのこと、試させてもらったんだよ」

「えっ? そうなの!?」

「ほら、やっぱり心配だったんじゃん」

「うう……杏奈ちゃんの意地悪ぅ」


 鏡を見ると目から涙がこぼれちゃってました。杏奈ちゃんは私の頭を撫でると肩を抱き寄せ、笑っています。


「だってあたしら、ズッ友だろ。その彼氏が浮気性で陽香が悲しむとか嫌じゃん」

「あ、あ、あ、杏奈ちゃん!」


お互いの制服は変わってしまったけど私たちの友情が変わらないと言ってくれただけでうれしくなりました。


「おお、おお、よしよし。でもよ、今度は彼氏に甘えてよしよししてもらわねえとな」

「よしよしはしてもらったことあるよ」

「マジか! ちょっとあたしにもその幸せを分けやがれ」


「あ、杏奈ちゃん……む、胸揉んじゃだ、ダメぇぇぇ……」


 杏奈ちゃんはするりとウナギのような動きで私の後ろを取ると服の上からおっぱいを揉み出したんです。


「おうおうおう! 彼氏に揉まれてデッカくなったんじゃねえの? 何カップあんだよ!」

「や、やめてぇぇ、へ、変になちゃうぅぅ。雄司くんはそ、そんなことしないよぉ……」

「答えるまで止めねえよぉ!」


 もう変な気分になりそうなときに詠美ちゃんと琴美ちゃんがお手洗いに入ってきて、一言。


「なにやってんの?」

「杏奈はすけべ」

「久し振りに会った陽香が成長してるか、確かめてただけだよ、なー、陽香」

「う、うん……」


 た、多分なんだけど、胸のサイズだけはお姉ちゃんより私の方が大きいと思う……。


 杏奈ちゃんたちは雄司くんを本気で誘惑しようとしてたんじゃないと分かって、凄く安心しちゃった。


 秀一さんのことが好きなのに……。


「まあ陽香がいらないってんなら、あたしがあいつの彼女に立候補するけど」

「詠美も」

「琴美も」

「「二人セットだから私たち姉妹が断然有利」」


「はあ? そんなの反則だろ!」

「恋は仁義なき戦い」

「卑怯も反則もない」


「ゆ、雄司くんは私の彼氏なんです!」

「分かってるって」

「陽香が怒った」

「陽香、かわいい」


 わ、私、なんてことをみんなの前で言ってしまったんだろう……。雄司くんは本当の彼氏じゃないのに。



――――【雄司目線】


 おーい、みんな……どこに行ってしまったんだよぉ……。


 俺はトイレから戻ったあと、しばらく一人でカラオケボックスの中にいた。


―――――――――あとがき――――――――――

作者、寒さに負けてストーブを出してしまいました。冬め、早々に作者に切り札を出させるなんてやりおるわ!

寒くなってきましたが読者の皆さまはお風邪など引かぬようご自愛ください。

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