第14話 無自覚にハニトラ回避2
「あの俺はキミのこと全然知らないんだけど?」
「千曲楓っていいます」
入学式の日に自己紹介で名前を聞いただけの美少女は名前を俺に告げると俺の手を掴み、男子更衣室へ引き込んでしまう。更衣室の中はみんな着替え終えて、男子は俺くらいしかいなかった。
男女二人きりで更衣室に入るとか、それこそ大人向けの叡智な動画に出てくるシチュエーションでドキドキしてきてしまう。
まあ俺に限って、そんな都合のいいことは起こり得ないんだけどな。
ははっと俺が自嘲気味に鼻を鳴らしていると、千曲の顔はさっきよりも赤く染まっており、なんだか雰囲気が妖しくなってきている。
千曲は俺に迫ると突然、彼女自身のブラウスの襟を乱暴に掴むと、それを一気に引っぱる。ブチブチとボタンが跳び、彼女の肩から白い肌が覗いたかと思ったら、さらにブラ紐までずり下げて色っぽいこと、この上ない。
なにを!? と驚いていると……。
――――お、襲われるぅぅぅぅーーーー!!!
息を胸いっぱいに溜め込んだ千曲がグラスが割れてしまうんじゃないかと思うほどの声で叫んでいた。
「ふい~、すっきりしたぁ! って……」
迫田が更衣室に併設されてるトイレから顔を出してきた。いつものずぼらで男子更衣室に女子がいるなどこれっぽっちも思っていない迫田はズボンを下ろした状態だった。
迫田の股間を見てしまった千曲は見てはいけない物を見てしまい、口を押さえてしまっている。
「どうしたぁぁ!!!」
そこへ千曲の叫び声に反応した剛力先生や生徒たちがなだれ込んでくる。千曲は俺の胸元でふるふる震えており、迫田のズボンは床に落ち、パンモロしていた。
「迫田ぁぁ! 貴様、遅刻どころかそこまで性根が腐っていたのかぁぁ!!!」
「ちがっ、オレはなにもなにもしてないって!」
「言い訳は生徒指導室で聞く! さっさと来い!」
この状況を見れば迫田が千曲を襲い、俺が千曲を助けたと思われても仕方ないだろう。
俺が千曲に気を取られている間に叱られていた迫田が男子更衣室に入っていたようだ。運悪く千曲のハニトラに引っ掛かってしまい、迫田は剛力先生にまたドナドナされてしまった。
迫田が男らしく全責任を負ってくれるらしい。なんてできた男なんだろう。俺は良い悪友を持ったものだ。
俺ははだけたままの千曲にジャージを差し出す。ブレザーを貸した方が様になるんだけど、それだとはだけた胸元が隠せない。
「汗臭いかもしんないけど、破れたブラウスよりマシでしょ?」
また母さんが間違えて、兄貴の名前が書かれたものだけど……。
「じゃ、授業だから」
「……」
千曲はよほど迫田のことが怖かったのか、もう泣き出しそうになり、そのまま震えていた。
「ひゃんっ!?」
見たくもない迫田の股間を見せつけられたんだ、俺は彼女を放置する訳にも行かず、美術品の塑像を抱えるように彼女の身体を持ち上げると千曲は子猫のような声を上げていた。
――――保健室。
抱えた感じ、俺と年齢は変わらないはずなのに千曲の体重は軽く雛森以上に華奢だ。
「失礼します!」
お行儀が悪いけども千曲を抱えていたので脚で保健室のドアを開けるとデスクに向かっていた養護教諭の白い背中が見えた。
「せんせー、急患です」
「また滝川か……」
椅子がくるりと回り、こちらを向くとうら若き男子高校生には目に毒な女養護教諭の姿があった。ビスチェ風の上着のため胸元の谷間が露わになり、下半身もミニスカで脚を組み替えでもしたら下着が露わになるんじゃないかと思うほどだ。
そんなエロっぽい、違った色っぽい先生は呆れたように呟いた。
「とりあえず、ベッドに寝かせよう」
「はい」
千曲は心ここに在らずといった感じでポカーンと天井を眺めていた。
「特に異常はなさそうだが……滝川、この子になにかした……って、それは有り得ないか……。しばらく様子見だな」
「よろしくお願いします」
「あー」
俺が立ち去ろうとすると先生がやる気なさそうに手を振っていた。
だが進もうとすると袖が引っ掛かった。千曲が俺のブレザーの袖を掴んでいたのだ。
「どうして、庇うんですか?」
「庇う? なにを?」
千曲が意味ありげなことを言い出すが、俺にはさっぱり分からない。
「また話はあとで聞くからね、あと教科の先生には体調不良って伝えておくから! それじゃお大事に」
千曲の手を両手で抱き締めるように握ると千曲の手はスーッと袖から外れてしまっていた。
―――――――――あとがき――――――――――
今回のメガニケミニゲームはシンプルでいいねw
前回はとにかくボリューミー過ぎた……。
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