第6話 無自覚に美少女を助ける陰キャ主人公
――――放課後。
時折吹く春風が満開の桜並木を揺らすと美しいピンク色の花弁を散らす。俺の隣で銀糸のように輝く髪を風に靡かせ、まるで青春映画のワンシーンのように歩く美少女。彼女はまたその桜吹雪がよく似合っていた。
俺の高校生活は律香先輩を兄貴に奪われたことで打ち身のときにできる内出血ばりの土留色で埋め尽くされるはずが、高校初日から彼女が出来てしまった……。
しかも先輩似の超絶美少女ときてる。
あまりの眩しさに直視できず、彼女をチラ見すると不思議そうに彼女は訊ねてくる。
「どうされました?」
「い、いや、なんでもない……」
俺を覗き込むきょとん顔までかわいくて、照れ隠しに彼女から視線を逸らしてしまった。
どうしてこうなった?
ほんの二時間前のことだ。
父さんと母さんは保護者説明会ということで、入学の説明を受けており、それが終われば先に帰ってしまうらしい。
「1年3組の生徒はこちらです」
掲示板の情報を頼りに教室の近くまでゆくと、俺たちの担任となる先生がドアの前に立って誘導していた。
あの人……どこかで……。
「そこ! 廊下を走らない!」
「は、はい……」
急いで教室へ入ろうとしてた隣のクラスの生徒が先生から叱られていた。
タイトスカートにブラウス、髪をお団子にまとめ、黒縁眼鏡、美人ではあるものの口元はきゅっと閉じられ、お堅そうなイメージだった。
ちらと先生の顔を覗くと既視感を覚えたが、そんな訳がないと思い、社交辞令的に「よろしくお願いします」とありきたりな挨拶をして教室へ入ろうとしていた。
ガシッ。
身体がほぼ教室へと入ったところで俺の歩みが止まる。どうやら後ろから両肩を掴まれたらしい。
「滝川雄司くん、訊きたいことがあります。放課後、私のところへ来なさい」
「え?」
「返事は、はいでしょ」
「あ、はい……」
なにも悪いことをした覚えがないのに、いきなりまだ名前すら知らない担任の先生から呼び出されてしまうなんて、最悪だ……。
「雄司、ご愁傷さまだな。まあ頑張れ」
気落ちして指定された席へ向かう途中、また腐れ縁で同じクラスになった迫田が俺の肩を軽く叩いた。
だがそんな迫田の表情も暗く、晴れやかな入学式にも拘らずお通夜みたいになっている。理由は言うまでもなく雛森とクラスの女子を比較し、かわいくないなんてこぼしてしまったからだ。
俺を含む1年3組陰キャ男子の青春は入学初日から終焉を迎えた……。
「せ、せまい……」
一方、雛森の周りを陽キャたちが取り囲み、隣にある俺の座席まで圧迫してくるほど。
「陽香ちゃんって、セイジョ出身なんだって?」
「そ、そうです……」
額から上が茶髪、その下が黒髪で刈り上げたツーブロックくんが距離感がバグってるのか、雛森の机に横座りして訊ねている。雛森は彼に警戒しており、小さな椅子の端に寄り震えていた。
「怖がってるじゃないか、まったくデリカシーのない男だな」
「ああん?」
後ろからサラサラ髪のイケメン男子がやってきて、ツーブロックに注意した。ツーブロックはサラサラ髪を睨んでいたが、サラサラ髪は無視して雛森に優しく語りかけていた。
「雛森さんは本当に凄いね、インスタグラムのフォロワーが300万人もいるなんて」
「わ、私、インスタなんてやってません。誰かと間違ってます、からかうのもいい加減にしてください。私はお姉ちゃんとは違うんです」
雛森はサラサラ髪の言葉に戸惑ったように答えたが、サラサラ髪はグイグイいく。
「そんな謙遜しなくていいって。かわいいだからさ」
おお、女の子を口説くには歯の浮くセリフも言えないといけないんだなぁ~、そう思いスマホのメモ帳に書き込もうとしたときだった。
オススメ動画に上がってきたモノをクリックすると……。
「おおっ! 伊吹サクラが脱衣配信やってんぞ!」
――――なにっ!?
俺が風聞をそれとなく流すと男子たちが色めき立ったように反応し、ポケットからスマホを取り出して画面を食い入るように超人気V Tuber伊吹サクラのライブ動画を凝視していた。
その際、陰キャ男子たちはツーブロックとサラサラ髪の二人を蹴散らしながら、席に置いてあったスマホを手に取っている。やはり陰キャのむっつりスケベ心は何よりも勝る!
推しのV Tuberが真っ昼間から開けっぴろげに脱いでしまうという事態に鼻息を荒くしていたところに雛森が目を潤ませ、お礼を告げてきた。
「滝川くん……ありがとうございます」
「え? 俺……なにもしてないんだけど……」
ただ俺のスケベ心に素直に従ったら、何故か美少女からお礼を言われた……。
―――――――――あとがき――――――――――
作者、地元のガンベに行ってきたんですが、お目当てのデルタガンダム弐号機がなく、ボリノーク・サマーンが積まれてあるだけでした……。
この徒労感たるや……悔しいのでWeb小説、書くの頑張る!
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