第5話 陰キャ男子は陽キャ女子の告白をスルーする

――――【雄司目線】


 ――――雛森陽香さまだ……。


 ――――なぜ天使さまがこんなところに?


 ――――ふつくしい……。


 後ろから廊下を歩いてきま雛森を見た男子は目を輝かせ、本当に地上に天使が降臨したといわんばかりに感嘆の声を漏らしている。


 そんな男子たちに目もくれず教室までの廊下をまっすぐ歩く雛森だったが、迫田に問い詰められている俺を見るや否やにっこり微笑んで会釈するとそのまま教室へ行ってしまった。


 爽やかな春風が吹いたかと思うと次の瞬間、禍々しいまでの瘴気が押し寄せる。雛森を見ていた男子たちの視線が一斉に俺に降り注いだのだ。


 ――――誰なんだよ、あいつ……。


 ――――陽香さまの天使スマイルをぉぉぉぉ!


 ――――許せねえ……。


 待て! 俺は彼女から要注意人物としてマークされていて、ただ逃げないでくださいね、という合図をもらっただけに過ぎない。


 なのに男子たちから恨まれるなんて最悪だ!


 くそう、もしかしてワザと俺が男子たちから恨まれるように仕組んだとか? 


 なら彼女は相当な策士だ……。


 俺は男子たちから取り囲まれ、まっさらな制服を脱がされ、全裸にされてもおかしくないほど睨まれていた。


 脱がされる前にせめて事情だけは知っておきたいと悪友の迫田に訊ねた。


「迫田……雛森って有名なのか?」

「まったく、これだから雄司は雄司って言われるんだよ」


 いや、それ普通じゃね?


 迫田は外国人が呆れたときにやる仕草と共にため息を吐く。


「あとをつけろ。我々のような下民が呼び捨てしていい方じゃない」


 俺を取り囲んでいた男子たちも迫田の意見に同意している。俺と迫田とは違う中学出身の男子たちも迫田に同意していることからも雛森は彼らに知られた存在らしい。


「雛森陽香さまは美少女率100%と噂される聖女学院セイジョの中でも熾天使セラフィムの世代と呼ばれた別格中の別格の美少女なんだよっ! そんな彼女が掃き溜めのような女子しかいない地美高に来るとかあり得んでしょ」


 その聖女学院の女の子たちはバスケの全中で奇跡とか起こしてそう。


 迫田は訊かなきゃ良かったと思うほどの熱弁を繰り広げていたが、なんか地雷を踏み抜いた気がする。


「まさか雄司……陽香さまを知らないなんて戯けたことを言うんじゃないよな!? なっ!?」

「んな、念を押されても知らないもんは知らないんだよ」

「かーっ! これだから雄司は雄司なんだよ」


 迫田よ、おまえは俺が雄司以外のモノに見えるのか? ならかなり天使さまの眩しさに目どころか脳まで焼かれてるのかもな。


 確かに雛森はかわいいけど……。


「しゃーねえ、とっておきの情報を教えてやる。陽香さまはな、熾天使のセンターだったんだ。しかも彼女の学年は特に美少女が多かったのにだ!」

「ふ~ん」


「ふ~ん、じゃねえよ! 熾天使の世代の生徒はな、全員がアイドルやらに声を掛けられてるってほどなんだぞ。ウチで彼女に匹敵する女子と言えば律香先輩くらいだ」


 まるで自分の彼女でも自慢をするかのような言いぶりで迫田は俺に語り掛ける。


「律香……先輩だと!?」


 ふふんと自慢気に鼻を鳴らす迫田。聞き捨てならない迫田の言葉に反応したときだった。


 後ろから手が幽霊のように伸びてきて、迫田の肩を掴む。迫田を掴んでいたのは、同中だが俺とはクラスが違った相原だった。


 金髪にデコったネイルの小麦ギャル、それが相原で陰キャの俺には陽キャの相原は少々苦手とする部類の人種……。


「迫田ぁぁ……それに他の男子もぉぉ、ちょっとこっち来てくれないかなぁ、こっちは掃き溜めだけどぉぉ!」

「ひっ!?」

「雄司助けて!」


 迫田は手を伸ばして、俺に助けてを求めてきたが部の悪い相原に俺はとても反論できる気がしない。


「すまん、流石に俺でも擁護できねえわ……」


 他の男子たちも相原たち陽キャ女子に捕まり、次々と体育館裏へと連行されていった。迫田たちにもこれからの高校生活、茨の道が待ってるんだろう。一番目を付けられてはいけないグループだったのに。


「アン、がんばんなよ」

「う、うん」


 迫田たちの去り際に一人の女子が相原に話しかけていた。ポンと相原の肩を叩くと体育館裏へと行ってしまった。


 まさか俺を締めるのを頑張るというのだろうか?


 俺は警戒を厳にし、構える。


「あ、あのさ、あたしさ、滝川のことさ……」


 すると相原はさっきまで鋭い目つきだったのに落ち着かない様子でじもじしながら「童謡あんたがたどこさ♪」の替え歌が始まってしまった……。


 なんだろう? 


 俺のことを鉄砲で撃ちたいくらい嫌われてるんだろうか?


 なら、これはすぐに逃げないといけない。


「あたしさ、頭悪いけど、滝川がさ、勉強教えてくれてさ……。そのおかけで、滝川と同じ高校に入れたんだ、ってどこいった? 話の途中で逃げんなぁぁーーー!!!」


 相原が俯きながら話すのでこれは絶好機と見て、俺は名うてのハンターから逃亡に成功した。


―――――――――あとがき――――――――――

読者の皆さま、ありがとうございます。作者が好きに書き散らかしているにも拘らず、星とフォローをして頂き、誠に感謝です。

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