火焚龍之介の過去


『あの、先輩……服、脱ぎました』


『報告しなくていいよ?見れば分かるし』


 それはそれでエロいから、僕個人としては好きだけど。やっぱり、この初々しい感じはいつまでも心地よい。


『は、はい……』


 この子はもう何回目にもなるのに、未だに緊張しているようだった。


『大丈夫、僕がリードするから』


『よろしく、お願いします』


 固まったその子の手を取る。


 そのままゆっくりキスしてあげて、そのあとその子に跨った。


 "彼"には、自殺する日を伝えていない。


 決心が鈍るかもしれないし、なにより彼が何をするか分からないから。


『せ、先輩ッ……ちょっと……』


『あ、ごめん』


 赤くなったその子の顔がよく見える。


 少し、自分の心を落ち着ける。


 もう一度キスをしてから、僕は丁寧にその子を扱った。


 息を荒げるその子を見て、やっぱり可愛いと思う。


 純朴な彼らしく、僕の行いは全て正しいと思って身を委ねてくれる。


 僕が欲しかったのは、そんな存在なのかな?


 彼との夜はとても長く感じた。


 だんだんと理性の紐が解けてきた彼は、発情期に入った猫みたいに体をくねらせている。


 僕は楽しかったし、彼の顔を見るのは好きだった。


 彼の脇腹に手を触れると、彼は大袈裟に体を揺らす。


 僕が彼の背中に手をやると、彼はいっそう僕を強く抱きしめる。


 僕の思った通り、思ったところを動かしてくれる。


 ふと、僕は邪悪な魔女リュウノスケに操られる、哀れな人形ピンクメガネを思い浮かべた。


 これじゃあお芝居みたいかな。


 趣向を変えて、彼に任せてみる。


 途端に、彼は道に迷った子羊みたいになってしまう。


 それもそれで可愛いけれど、僕は少々、物足りなさを感じてしまう。


 ねぇ、僕は君で良いはずだよね?


 僕が彼に触れると、彼はまた、情熱を傾ける先を見つける。


 君なら、大丈夫だよね?



 もう何度目になるかも分からない問答を、僕は今も、たった1人で続けているようだった。

 

 

 

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