火焚龍之介の過去



『死んでくれるってさ』


『……唐突だな』


 大学生活、最後の春が来た。


 夏は近く、気温も徐々に高まりを見せている。


 春の息吹もその殆どを吐き出し尽くして、あとは自然の芽吹きに任せ、緑が茂るのを待つだけと言ったこの頃だった。


 ピンクのメガネの彼が言うには、僕と一緒に自殺がしたいとのこと。


 もちろん、それとなく仄めかしたのは僕であって、完全に彼が自発的にと言うわけでもない。


 意思ある作為によって、あの子は今、地獄へ踏み出そうとしていた。


『やっと……ってことか』


 彼は寂しげな表情を隠そうともしないで、そんなことを言う。


 表情と言葉が合ってないと注意するのは簡単だけど、彼も彼なりに、僕の心を汲み取った末での言葉だった。


 灰の匂いがした。


 やるべき事を残して深い眠りに落ちるような不快感。それと共に現れたのは、火のついた木々が燃え始めた先に出した灰の匂いだった。


 やがて、炎は全身を回るだろう。


 そうなった時が、僕の最後。


 彼との約束の最後だった。


『ねぇ、やっぱりさ、一回だけでも、抱いてみない?』


『……"友達"だろ、俺たちは』


『もういいよ、それ。最後なんだしさ、全部忘れていいじゃん。そんな設定忘れて、今を楽しもうよ』


『設定、か……じゃあ、ホントの俺たちはどんな関係なんだ?』


『知り合い以上、友達以上、恋人以上、家族以上……僕にとっては全部がクソみたいだったから、それ以外の何か、もっと尊い関係だよ』


『……違うな。俺たちは、尊い関係なんかじゃない。もっとずっとクソみたいな、共依存の沼ズブズブにハマった汚ねぇ関係だ』


『じゃあ、それでいいよ』


 僕は彼の方に身を乗り出した。

 

 彼は僕を見て、泣きそうな表情になった。


 苦しさはない。切なさはある。愛しさもある。


 最後に欠けた思いのピースが、ピッタリハマった気がした。


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